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はじめに
ガラス乾板(エマルジョンプレート)はフォトリソグラフィを用いて微細な金属配線を形成するフォトファブリケーション工法でICサブストレートやリードフレームなどの製造において原版となるフォトマスクとして使用されており、コニカミノルタが世界で唯一製造販売している材料である。ガラス支持体上に粒径50 nmのハロゲン化銀リップマン乳剤を感光体として塗布し、レーザー描画で10 μm程度までの微細なラインを再現することが可能である。近年、これらのフォトマスクを製造する現場ではガラス乾板に配線のCADデータを描画するエマルジョンマスク用レーザー描画機の老朽化が進んでいる。一方でパッケージ積層基板などのICサブストレートのパターン形成において、金属材料面上のDry film resist(DFR)などのフォトレジストに直接レーザーで描画するLDI装置の普及が進み、フォトマスクを使わない工法も進みつつある。これまでエマルジョンマスク用の描画機を製造してきた機械メーカーではLDI装置の製造に注力し、市場での老朽化したエマルジョンマスク用描画機の置き換えが困難になってきている。しかし、リードフレームなど、両面からエッチングやメッキをして作製する製品では片面ずつ描画するLDIの技術では表裏の位置合わせに時間がかかるため、エマルジョンマスクを使用するプロセスが継続して必要であり、エマルジョンマスク描画機の更新が切望されていた。コニカミノルタではエマルジョンプレートの感光体である微粒子ハロゲン化銀乳剤の設計を大幅に変更し、感光特性をDFRなどのフォトレジストに近づける検討を行った。これによりLDI装置を使ってエマルジョンマスクを製作できる材料を開発し、LDI装置を使って市場のエマルジョンマスク用描画機の置き換えを進めることとした。更に、高精度LDI装置との組み合わせでL/S=5/5 μmの再現を実現し、これまでは暗い赤色暗室灯下での取り扱いが必須であったが、明るい黄色灯下での取り扱いを可能にし、作業性も向上した。本稿ではこのガラス乾板の超微粒子乳剤の感光特性調整および明室取り扱い性付与に関する技術について報告する。
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感光体の設計
2.1 DFRとエマルジョンプレートの感光特性
LDIで描画をするDFRはエマルジョンプレートに比較し、感度がかなり低く感光波長も近紫外線や紫色レーザー(365 nmや405 nm)で短波長側に寄っている。このため、感光特性をLDIの光源に合わせるにはハロゲン化銀リップマン乳剤の低感度化、短波長感光特性を与えることが必要であった。Table.1にガラス乾板とDFRの感光特性の違いを示す。
Table. 1 Property difference of emulsion photo and film resist
2.2 超微粒子ハロゲン化銀感光体の設計変更
ハロゲン化銀の感度を下げて解像力を高めるには、粒子の平均粒径を小さくすることが有効である。しかし、もともと高解像性を要求されるエマルジョンプレートの感光体であるハロゲン化銀乳剤は平均粒径が50 nmとハロゲン化銀感光体としてはかなり小さく、それ以上に粒子が小さくなれば中心粒径に対しての均一性が悪くなり、線画の鮮鋭性が低下することが想定された。このため小粒径化はせず、結晶内への金属ドープ(Rh)による電子トラップ付与と近紫外光吸収染料による感度抑制手段を選択した。また、装置周辺の安全光(暗室灯)はDFRの感光特性に合わせ、500 nm以下をカットした明るい黄色灯を想定し、現行のハロゲン化銀乳剤の沃臭化銀組成を塩臭化銀に変更し固有感度を短波長側にシフトさせ(Fig. 1)、更にメロシアニン色素による分光増感を排除した。塩化銀結晶は臭化銀結晶や沃化銀結晶に比較し、ゼラチン溶液中の溶解度が高く、特にハロゲン化銀粒径が小さいほどハロゲン化銀結晶は溶解しやすく、オストワルド熟成が進み、大きな粒子が増加して粒径分布が広がりやすくなる。これを防止するため、粒子に吸着するメルカプト化合物を粒子形成直後に添加し、結晶成長を安定化することができた。こうしてできた6面体結晶塩臭化銀超微粒子写真をPhoto.1に示す。
この粒子を硫黄増感後、λmax=424 nmの水溶性染料、界面活性剤を 添加し、洗浄したガラス基板の片面にダイコーターを使って膜厚約6 μmになるよう塗布して新型エマルジョンプレートHV1を得た。
感度はDFRと同等までは落とせなかったが、LDIを安定に使用できるエネルギー領域で使用が可能となった。
エマルジョンプレートHV1の特性値をTable. 2に、各感光材の分光感度をFig. 2に示す。
Table. 2 Each property of new emulsion photo plate HV1 and dry film resist
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LDI描画による描画と現像評価
a. 画像評価
新型エマルジョンプレートHV1をオーク製作所社製ダイレクト露光装置「FDi」 を用いて、5 μmの線を複数描画し、画質および光学濃度を確認した。拡大画像写真をPhoto. 2に示す。
b. 黄色安全光下での取り扱い性確認
安全光としてPanasonic社製FHF-32・Y-F/Pの約300 Lx下にて1時間の作業を行い、画質や透明部に影響が出ないことを確認できた。
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終わりに
LDIをエマルジョンプレートの描画機に活用するため、現行の超微粒子ハロゲン化銀の組成を変更し、新たな超微粒子を設計することで感光スペクトルを変え、感度をDFRに近づけて市場に投入することができ、特に両面エッチングのリードフレーム市場のエマルジョンプレート描画機の描画機更新を推し進めることができた。更に市場の要望への応用が期待できる。