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概要
胸部単純X線撮影は、世界的で広く行われている一般的な検査であり、撮影数が多い事で知られている。一方、対象疾患が多岐にわたるため、読影の難易度が高く、コンピュータによる読影支援が有効とされる分野の一つである。胸部単純X線画像診断支援AI「CXR Finding-i」は、医師の読影時の見落としを防ぎ、医療現場を支援するソリューションとして、2021年11月に発売された。その後、2024年10月には精度を向上させた改良版をリリースし、2024年12月時点で日本国内700以上の医療機関に導入されている。AI技術の一つであるDeep Learningを活用し、胸部単純X線画像から特徴的なパターンを抽出して病変が疑われる領域をマークで示すものである。本稿では、開発したAI技術の概要、12名の医師による読影実験結果、およびシステム構成について紹介する。
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Fig. 1 Overview of CXR Finding-i
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詳細
■構成
「CXR Finding-i(以下、本製品)」はプログラム医療機器であり、コニカミノルタのさまざまなシステムに搭載可能なように設計した(Fig. 2)。これらのシステムを通じて、X線撮影装置などから受信した胸部正面画像を本製品がAI解析し、得られた解析結果をPACS(医療⽤画像保管・転送システム)などの装置へ送信する仕組みとなっている。
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Fig. 2 System Architecture and Integration Overview of CXR Finding-i
医用画像から異常所見が疑われる領域を検出する技術は多く存在するが、本製品はDeep Learning技術に加え、コニカミノルタが独自に培った画像処理技術および医用画像に関する専門知識をアルゴリズムに組み込んでいる(Fig. 3)。Deep Learningモデルは、異常所見の大局的および局所的な特徴をバランスよく抽出可能となるようアーキテクチャーを設計するとともに、解析処理時間とメモリ使用量を最適化する工夫を施している。また、Deep Learningモデルの性能向上においてデータは極めて重要な要素である点から、本製品の開発ではデータ収集にも力を入れ、日本国内外大手病院・健診施設から高品質な数十万件規模の画像データを収集し学習に活用することで、モデルのロバスト性を高めた。
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Fig. 3 AI Components Powering CXR Finding-i
これらの取り組みの結果、2024年10月にリリースした改良版では、本製品による病変検出の感度は結節・腫瘤影で84%、浸潤影で85%を達成した。特異度は88%となり、初版の69%から19ポイント改善した。12名の医師による読影実験では、医師の診断の正確さの指標であるFigure Of Merit(FOM)が、本製品の使用により0.756から0.878へ統計的有意に改善した。また、本製品未使用時の医師の平均感度が約75%であったのに対し、本製品使用時には約89%と、14ポイント向上した。これらの結果から、本製品の使用が医師の読影性能を統計的に有意に向上させることが示された。(Fig. 4)
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Fig. 4 Reader Study Results
■機能/特長/用途
本製品は、他社装置で撮影された画像にも対応しており、入力画像として受け入れることが可能である。また、解析結果は、医師の視線を引き付けるため、オリジナル画像上にシンプルな円形マークとして表示し、読影時の参考画像として提供している(Fig. 5)。
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Fig. 5 AI Result Image Sample
また、本製品は「FINO.VITA.GX」において「FINO.Report」と連携可能である。これにより、医師が記載した読影レポートとAI解析結果を突き合わせ、システムが所見の有無の差異をチェックしてユーザーへ通知する(Fig. 6)。この機能は、医師が見逃した可能性のある所見に気付くきっかけを提供し、医療の質のさらなる向上に貢献している。
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Fig. 6 Integration of CXR Finding-i with FINO.Report: Cross-checking System
■今後の展望
コニカミノルタはこれまで、肋骨減弱処理および胸部経時差分処理といった、胸部単純X線画像の医師による読影を支援する画像処理技術を開発してきた。今後は、これらの独自技術を基盤に生成AIや基盤モデルなどの最先端技術を積極的に活用し、医師の負担軽減や作業効率の向上を含む、医療現場の多様なニーズに応える製品への改良に取り組んでいきたいと考える。