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概要
バイオものづくりでは、細胞数、細胞の色や形状、他生物のコンタミネーションなどの培養モニタリングが製造の安定に不可欠である。細胞数は目的産物の生産力として収量に直接影響する。細胞の色1) や形状2) は代謝状態を反映することがある。コンタミネーションは収量の減少や培養物の破棄につながり、開放系で培養する微細藻類は特にそのリスクが顕著である3)。モニタリングに使われる古典的な手法は顕微鏡観察であり、細胞の情報を迅速に得られる。しかし、顕微鏡の確認作業は一定の労力を要し、人によってばらつきが出やすい。そこで我々は、顕微鏡画像から細胞の情報を出力するAIソリューションを開発した。微細藻類の細胞の数や形状、コンタミネーションを判定する。色の識別や別種の細胞の対応も実装を予定している。作業コストの低減と精緻な細胞情報の取得の両立を狙い、バイオものづくりの生産性向上に寄与する。
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詳細
■構成
本技術は主に3つの要素(顕微鏡、スマートフォン等のカメラ、AIを含むサーバー)で構成されている(Fig. 1)。顕微鏡は簡素なものでよく、画像の取得はスマートフォン等のカメラ機能により行い、サーバー上に構築しているAIで画像処理を行う。
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Fig. 1 本技術の構成要素。顕微鏡画像を撮影したスマートフォンから、AIモデルを含むサーバーへ画像を転送し、解析結果を同じスマートフォンに返している。
利用時の流れとしては、顕微鏡にスマートフォンを取り付け(Fig. 2)、微生物細胞を含む培養サンプルをセットし、大まかにピントを合わせたのち、カメラ機能で撮影した画像(Fig. 3)をサーバーに転送し、AIによる処理結果をスマートフォンに返す、というものである。
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Fig. 2 顕微鏡の対物レンズを覗き込むようにスマートフォンを取り付けた様子。市販のアダプターを使用している。
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Fig. 3 スマートフォンで撮影した顕微鏡画像。映っているのはミドリムシ (Euglena gracilis) の細胞。
■機能/特長/用途
本技術の主な機能としては、細胞の計数や形状、コンタミネーションの判定である。直近では微細藻類を対象としている。Fig. 4で示す通り、物体を検出し、細胞の生死や数、コンタミネーションなどを判定する。
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Fig. 4 撮影した顕微鏡画像をAIで解析する際の流れ。画像に含まれるオブジェクトを検出し、オブジェクトごとに分類していく。この例ではミドリムシ (Euglena gracilis) の細胞の形状で生死判定を行っている。
本技術の特長は、生物種を絞り、よりユースケースに合わせた機能を実現していることである。市場にある顕微鏡画像解析は特定のユースケースに特化していないことが多い。機能を絞ることにより、市販の解像度のカメラと顕微鏡で、高額な機器導入がなくとも高精度な解析が可能であると考えられる。
加えてピントが合わない状態での画像処理が可能である。培養液を観察する際、焦点が合わない細胞がある。本技術では学習にあえてピントの合っていない画像を学習させ、ぼやけた状態の細胞であっても判定に可能する。これにより精密なピント合わせの操作なしで一定品質の検査を可能とする。
本技術の目的はバイオものづくりにおいて、顕微鏡による培養モニタリングの簡易化と精緻化を行うことである。特に製造拠点の国際化は品質管理検査の簡易化と精緻化が求められる。国によって品質管理者の精度がばらつき、顕微鏡など人の判断の余地が大きい検査は均一な結果を得ることが難しく、画像解析機能つきの顕微鏡などの高価な製品は導入が容易でない。本技術はAIを判定に用いて検査者による精度のばらつきを減らし、スマートフォンとクラウドサービスを利用することにより導入ハードルを下げられる。
■今後の展望
今後は顕微鏡画像の情報量が多い糸状菌を視野に入れている。また、本技術でデータが蓄積し増殖曲線の予測、コンタミネーションしやすい培養条件の要素抽出、細胞の色や形態から簡易的な代謝状態の把握などを目指す。