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はじめに
近年,コニカミノルタのプロダクションプリントの導入先である印刷業界では,受注するジョブの多品種小ロット化が進み,ジョブごとの印刷準備に時間がかさみ印刷コストの増大につながるという課題に直面している。この課題の中でも,印刷の色調整にかかっている作業時間は少なくなく,印刷コストの低減に向けて,もっと簡単に短時間で色調整が完了することが要望されてきた。
コニカミノルタでは,この課題を解決すべく,2017年にAccurioPress C6100/IQ-501システムをリリースし,色調整のスキルレス化・自動化を実現した1)。これにより,望みの色空間に色合わせすることが容易になった。
我々はIQ-501によるカラーマネージメントのさらなる価値向上をすべく,顧客訪問や展示会でのヒアリングを行い,お客様の困りごとの探求や,解決策の価値検証を継続的に行ってきた。
その中で我々が注目したのは,印刷業界で日常的に行われている,印刷見本に対する色合わせである。この色に合わせて欲しい,という印刷見本が印刷データとともに持ち込まれ,それに合わせるためには熟練の印刷オペレーターがトーンカーブ調整などで時間をかけて行っており,これはパッチを測色する仕組みのIQ-501では解決しきれない課題であった。
この課題を解決するために,我々は印刷見本をスキャナーでスキャンするだけで,色合わせを行うことができるソリューションAccurioPro ColorManager Printを技術開発した。
本技術を用いることで,従来20–30分程度かけて熟練者が色調整していた印刷見本に対する色合わせを1回の自動調整約5分で完了することができるようになった。今後,省人化が必要となっていく印刷会社に対して,ワークフロー変革の一助となることを確信している。
本稿では,本技術を開発するに至った経緯と,搭載技術の紹介と合わせて,その価値について報告する。
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顧客の現場視点を組み入れた開発
コニカミノルタは 2017 年,AccurioPress C6100/IQ-501 システムをリリースし,プリンタープロファイルのワンタッチ作成機能などにより,カラーマネージメントのスキルレス化,簡便化を実現した。
さらにIQ-501によるカラーマネージメントの価値向上のために,開発メンバーが主導して顧客訪問を継続的に行い,顧客ワークフローの構造化および複数のペインポイントの抽出を行った。そして,解決ソリューション案についてプロトタイプを作成し,それが実際に必要か,現在の顧客のワークフローを変えることができるか顧客ヒアリングにて検証してきた。
その中で,我々が技術開発すべきと結論した課題が印刷見本に対する色合わせである。IQ-501の自動パッチ測定によるプロファイルベースのカラーマネージメントを行っても,プロファイル管理されていない見本に対しては,いまだに熟練者がトーンカーブ調整などを使ってトライ&エラーを繰り返し,20–30分かけて色合わせを行っているのである(Fig. 1)。
この課題を解決することで,色合わせ時間の短縮による印刷コストの削減だけでなく,高度な知識や熟練の技が不要になり,印刷オペレーターの技術継承に頭を悩ませる必要もなくなる。
我々は技術開発のために,スクラムチームを組み,アジャイル方式にて開発を進め,日本国内における協力していただける印刷会社を選定しβ版を試用してもらうこ
とで,価値検証を開発フェーズでも実施し,ユーザビリティや機能改良,精度向上を行い,製品化を進めた。
その結果,IQ-501カラーマネージメントのポイントであるスキルレスというコンセプトを継承し,印刷見本をスキャンするだけで色合わせが完了するAccurioPro ColorManager Printをリリースするに至り,2021年現在,ワールドワイドで展開中である。
次章にて,開発した搭載技術について報告する。
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搭載技術
3. 1 シームレスなエンジンとソフトウェアの連係
印刷オペレーターが印刷見本に対する簡単な色合わせを実現するために,画像を取り込む方法としてはプロダクションプリント機に付属しているスキャナーで印刷見本をスキャンする方式を採用した。
また,印刷見本となる画像をスキャンするアプリケーション,色調整を行うアプリケーション,作成したプロファイルを登録するアプリケーション,といったように複数のアプリケーションを駆使する必要になるところだが,我々は一つのアプリケーションからジョブの選択,スキャン,プロファイル調整から登録まで,ウイザードに従って進めていくだけですべての作業が完了するアーキテクチャを採用した(Fig. 2)。
3. 2 自然画像からの色推定技術
IQ-501システムでは分光測色器とCCDスキャナーによるハイブリッド測色技術によって矩形の測色パッチを測定していたが,印刷見本にパッチがあるとは限らない。
そこで,スキャン画像を様々な矩形領域で探索し,画素値の色彩値の分散が小さいところ,スキャナーのフレアの影響度が小さいところ,画像に使われている色域が満遍なく取れるところ,といった様々な項目を考慮して,取得するポイントを決定するアルゴリズムとした(Fig. 3)。
Fig. 4 に印刷の色変換テーブル,および,スキャナーから測色値計算のためのスキャナープロファイルを計算する流れを示す。スキャン画像から精度良く測色値を推定するために,IQ-501搭載の分光測色器でL*a*b*値が既知となっているチャートをスキャナーで測定し,スキャナープロファイルを更新するハイブリッド測色アーキテクチャを採用した。また,本システムでもIQ-501同様のRGBK->L*a*b*の4次元スキャナープロファイルを採用している1)。
3. 3 画像位置合わせ技術
原稿に記載されたCMYK値を色変換テーブルで色変換して任意のL*a*b*値を再現するのが基本的なカラーマネージメントシステムの考え方だが,自然画像のスキャン画像のRGB値では,色変換テーブルのどのグリッドを修正すれば良いのかわからない。また,スキャン画像は傾いてスキャンされている可能性もあり,そのままではデータとの位置の照合ができない。
そこで,原稿のCMYK画像とスキャン画像の双方の特徴量抽出を行い,2者の座標を合わせこみ,前章で決定した色推定ポイントから原稿のCMYK値を特定,そしてデバイスリンクプロファイルが所望のL*a*b*になるよう補正するアルゴリズムとした(Fig. 5)。
3. 4 色変換テーブル修正技術
前章までに述べたとおり,自然画像から代表色を取得し,所望のL*a*b*になるよう色変換テーブル(デバイスリンクプロファイル)を修正する。各代表色について算出した色変換テーブル補正量を周囲のグリッドに伝播させるアルゴリズムを構築することで,代表色のみならず,画像で使用されている色域全体をリーズナブルな計算コストで補正することができる(Fig. 6)。また,補正量が大きい場合には,トーンジャンプが発生するリスクがあるため,スムージング強度をオペレーターが任意に選択できるような仕組みも搭載した。
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結果
自然画像のカラーマッチング性能を定量的に評価するために,自然画像からチャートを生成し,それを本技術で生成した色調整用デバイスリンクプロファイルを用いて原稿画像と同時に出力し,分光測色機(コニカミノルタ製FD-9)にて測定することで定量的な評価を実施した(Fig. 7)。
印刷見本と調整前原稿の色差,印刷見本と本技術で色調整した原稿の色差を円の大きさで表し,a*-b*色度平面にプロットしたものをFig. 8 に示す。なお,印刷見本画像には意図的に⊿E00色差が平均約4.0になるように色をずらしたものを使っている。調整前に発生させていた色差(図左)に比べ,本技術を使って自動調整することにより全体的に色差を小さく調整できていることが確認できる。また,自動調整の結果よりも高い精度の色合わせを必要とする場合はこの調整後にトーンカーブ調整などを行うことで,従来以上の精度での色調整および時間短縮を実現することができる。
調整にかかる時間について評価結果をFig. 9 に示す。プロットが調整回数,縦軸に平均色差,横軸に調整時間(秒)を示す。黒の点線の水準が従来通りの手動調整を繰り返すことによって13回繰り返した結果である。青色の水準は,1度目の実線は本技術を用いた自動調整,2度目からの点線は従来のどおりの手動調整で追い込んだ結果である。自動調整の1回の精度でも従来手法以上の精度を5分程度で実施でき,さらに手動調整で精度を追い込んだとしても,ベースとなっている精度が良いため,従来の1/3程度の時間で完了していることがわかる。
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まとめ
AccurioPro ColorManager Printではスキル不要で印刷見本に対する色合わせを可能とするシステムを達成した。これにより簡便にカラーマッチングできるようになり,IQ-501の自動カラーマネージメントシステムと合わせて,熟練者のスキル依存だったワークフローの変革を促進することができる。
今後は,さらなる精度向上,利便性向上,自動化強化を行い,顧客のワークフローの変革に貢献していきたい。