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はじめに
近年,データやIT技術を活用し,急速に成長する企業が世界的に増えている。これらの企業は,ソフトウェアやクラウドの最新技術を最大限に利用し,データ活用に基づくお客様への新たな価値や体験をサービスとして提供することで,世界規模に成長している。これらのビジネスは成長する過程でプラットフォームの概念を生み出し,業界・業種を超えた破壊的イノベーションを引き起こしている。これからのビジネスでは,新規事業の創出において,このようなプラットフォームを活用することが必須であるのは周知の事実である1)。
コニカミノルタは,ビジネス環境の激しい変化に即時に対応し,持続的なデジタル社会の実現に貢献するために中期経営戦略「DX2022」を掲げている。
このDX2022を推進する上で要としたのは画像IoT技術である。コニカミノルタの画像IoT技術には3つのレイヤーがあり,①現場(エッジ)サイドで必要なデータ・情報を取得するエッジデバイス,②今後のデータビジネスのキーとなり,データの管理を行うIoT Platform,③得られたデータをAI技術によって解析することでお客様に最適な提案をするImaging AIから構成されている。コニカミノルタはこれまで社内で利用していたこれらの技術を社外にも提供するため,画像IoT技術のオープンプラットフォームFORXAIを2020年11月に立ち上げ事業化した。このFORXAIは自社技術だけではなく,パートナー企業やお客様保有の技術を自由に組み合わせることで,多種多様なニーズに応えることを可能にしている。
コニカミノルタはFORXAIを当社DXの礎とし,プロダクト提供から高付加価値サービス提供へとビジネスモデルの変革に取り組んでいる。ここではビジネス環境の変化に対応すFORXAIの概要と,技術,FORXAIを活用したパートナービジネスの実例を紹介する。
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FORXAIビジネスとは
2. 1 ビジネス環境の変化
ビジネス環境の変化に伴い,筆者らは自社のビジネスケイパビリティ(組織が価値を創出できる事業能力)を超えたビジネス構築が重要だと捉えている。従来のビジネスモデルでは各企業が自社の持つビジネスケイパビリティを用いて,単独で価値創出を行ってきた。これは競合他社に優位性を持ったうえで,提供した製品がそのまま事業価値につながった時代であったからである。一方で,これからのデジタル社会では企業はデジタルケイパビリティ(組織がデジタル化を推進する能力)を活用し,データを介して複数の企業やお客様と一緒に価値創出することが求められている。これまでのように,優れた製品を提供することではなく,顧客体験や顧客に応じた個別最適化されたサービスを提供することが事業価値へとつながることに変化した。このようなビジネス環境では,単独の企業で顧客価値創出を行うのではなく,複数の企業で協業して顧客価値創出することが前提となる。多種多様の知見やノウハウ,技術を持った企業が共通の仕組みを使ってシームレスに繋がり,事業共創をすることがこれからの事業にとって最も重要なポイントとなっている。
2. 2 FORXAIが目指すもの
コニカミノルタはこのビジネス環境の変化に対応するため,データとIT技術を活用する基盤となるFORXAIを立ち上げた。FORXAIは様々なお客様の課題を解決するため,現場の生データを取得し,AIを活用した分析結果をリアルタイムに実世界にフィードバックすることができる制御技術の集合体である。コニカミノルタのDX推進にとってFORXAIは要と言える存在である。
FORXAIはパートナーとのエコシステムを構築し,お客様にとって最も良いサービスを提供するための顧客価値共創のハブとなることを目指している。
2. 3 パートナーエコシステムの構築
FORXAIは,コニカミノルタの画像IoT技術をオープンプラットフォームとしてパートナーに公開する。Fig. 1で示すようにFORXAIでは様々な企業が自由にバリューチェーンへ参画し,パートナー企業が持つサービスを相互活用することを想定している。コニカミノルタと補完関係にある技術や業界の専門性,販売網などを持つパートナー企業と協業することでお客様に新たな価値提供を行うことを促進している。この様々な企業と協業する新規事業創出の仕組みを「パートナーエコシステム」と呼び,連続的にイノベーションを生み出すことを目標に研究開発を進めている。
今後,FORXAI が実現するデジタル社会では,コニカミノルタとパートナー企業の垣根をなくし,各社の持つデジタルケイパビリティと連携したエコシステムを構築し,パートナー企業と共に成長していく姿を描いている。
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FORXAIを構成する技術
FORXAIはImaging AI,IoT Platform,Edge Deviceの3つのレイヤーから構成される技術群である。FORXAIを活用することで,Imaging AIは,Edge Deviceで取得したデータや情報をIoT Platformで簡単に蓄積・整理することができる。さらに,Imaging AIは,蓄積された画像データを高速・高度に処理するAIエンジンであり,画像に特化したエンジンであることが特徴である。以下にそれぞれの技術について紹介する。
3. 1 Imaging AI
Fig. 2 に示すとおり,Imaging AIは,画像解析を行うための高速・高度なAI処理技術群である。特に,この画像処理技術を使い,姿勢推定や人物属性検知などの「人行動」,X線動態解析や画像バイオマーカーなどの「先端医療」,欠陥検出や分類などの「検査」の3つの領域に強みがあり,今後の注力領域でもある。
3. 2 IoT Platform
Fig. 3 にIoT Platformの概念図を示す。IoT Platformは,
Device management agentを介して,プラットフォームに接続されたDeviceを管理することができる。
Deviceから得られたデータは,IoT Platformで蓄積・整理される。Cyber Physical System(サイバーフィジカルシステム)とも呼ばれており,あらゆるエッジデバイスから膨大な情報(ビッグデータ)を取得し,インターネットを介してクラウド上にデータが通信され,分析・解析を行う。IoTを使って事業を行うには必須の機能である。
3. 3 Edge Device
Fig. 4 にコニカミノルタの特徴的なEdge Deviceを示す。Edge Deviceは,機械の状態をリアルタイムで監視する事業やサーマル機能付き産業用カメラ,ガス監視カメラ,3Dレーザーレーダーなどの事業に活用される。
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人流マーケティングへの適用
4. 1 ユースケース
FORXAIを活用する取り組みの一つとして人流マーケティング事業への適応を紹介する。現在,大型商業施設などの店頭マーケティングでは,消費者一人一人がどのような行動をとっているのかを分析し,店舗の配置や商品の陳列などに人の流れに合わせた戦略が導入されつつある。
多くの商業施設では移動する人の動きを分析するための人員を投入して計測していた。これを自動化させようと多くの企業がシステム化に取り組んだが,いくつかの課題があった。例えば顔認識による方式では,マスク装着することで顔の特徴点が隠れてしまい認識精度が著しく低下してしまう。また,顔画像では個人情報にあたる顔画像の取り扱い,プライバシーの懸念もある。骨格検出2)による方式では,顔認識と違いプライバシーの懸念はなかったが,人の真横からカメラで撮影する必要があるため,設置時において画角調整が非常に煩雑であると言われている。
そこでコニカミノルタはFig. 5 に示す「人流マーケティングソリューション」を開発した。このソリューションでは服装や持ち物も含めた人物の全体像から属性を判別する属性認識技術(Fig. 6)を応用し,属性のマッチ率で同一人物を判定することができる。この技術を応用してスマートシティや商業施設における来店者分析を可能にするソリューションを展開している。属性認識技術を利用することで,個人を特定することなく,異なる地点のカメラに映る人物を追跡することができる。
顔認証で課題となっていたマスクや帽子で顔が隠れていても同一人物の認識と追跡が可能であり,個人特定を行わないため来店者のプライバシーにかかわる懸念をなくすことができた。さらにFORXAIの画像処理技術により,これまで難しかった複数のカメラ間での画像整合性の問題(照明条件など)を解決した。
この人流マーケティングは,施設内店舗間の相互利用者数,来場者の時間帯別属性,来場者の動線といった来場者のマーケティングデータを,消費者のプライバシーに配慮しながら自動的に取得でき,より効率的な販売戦略の構築や課題解決を支援する。また,AI処理を使うことで常に同一の基準でデータを比較判断することができる。結果として,業種業態が異なる施設においても同一の観点で比較可能なデータとして計測することができるようになった。今後,導入される商業施設においても,この人流マーケティングの計測結果を用いて人流,来客
層を分析し,新規テナントのオープンに貢献することを目指している。
本ソリューションは,コニカミノルタ単独ではなく,ネットワーク構築に関するノウハウや映像 AI 分野での高い営業力を持った丸紅ネットワークソリューションズ株式会社と協業し,販路拡大を図っている。また,丸紅ネットワークソリューションズ株式会社に現場への最適な提供方法の検討やお客様課題の吸い上げ,コンサルティングを行ってもらうことで,コニカミノルタは技術の研究開発に専念することができ,それぞれの強みを活かすことができている。これはFORXAIが目指しているエコシステムの構築の一例である。
4. 2 FORXAI技術による共創
人流マーケティングでは数多くのFORXAI技術を活用している。その中でも最もコアな技術は属性認識技術である。カメラに写った動画から人間と認識して検出すると同時に,性別,年齢層,上下服装,帽子の有無,カバンの有無,メガネの有無など複数の項目を分析する技術である。
この属性認識技術を基に人物にID付け,IDのマッチングを行った技術が人流マーケティングに適用されている。人流マーケティングではこの人物属性の一致度を活用して同一者と認識している。そのため,顔認識では苦手としたマスク顔への対応だけでなく,正面以外の角度からでも判定が可能になった。さらに,服装の色認識ができるため,ファッショントレンド分析への応用も期待されている。ここには,設置されたカメラ間の環境条件を揃えるためにコニカミノルタが得意としている色補正
技術も活用している。この技術により,ほとんどの既設カメラで人流マーケティング分析を行えるシステムになっている。なお,性別,年齢層については,物理的な外観に基づいており,実際の人物の性別・年齢を示すものではない。
このシステムではカメラデバイスや現場(エッジ)サイドのサーバーのリモートメンテナンスにIoT Platformを活用している。これにより運用保守のコストを大幅に削減することができた。死活監視とは,機器やシステム,ソフトウェアなどが正常に動作しているかを外部から定期的,継続的に調べる仕組みである。現場(エッジ)サイドで利用されるログデータを取得して,各機器やシステムの状況を一括監視することができる。また,デバイスと接続する仕組みを用いてリモートメンテナンスすることも可能である。事前に登録された暗号情報を用いて
デバイスとより安全に通信し(デバイス・システム間認証),遠隔地からアップデートやトラブル対応を行うことができる。
この人流マーケティングのシステムは,コニカミノルタのFORXAIと丸紅ネットワークソリューションズ株式会社のAI映像監視サービス「TRASCOPE-AI」から構成されている。店舗内の現場サイドサーバーからクラウド上でのデータ分析・解析はFORXAIが担当している。クラウド部分の構築はTRASCOP-AIが担当している。FORXAI技術を用いることで,パートナー企業である丸紅ネットワークソリューションズ株式会社との共創で新たなシステムを構築し,新たなサービスを開発することができた。
この取り組み事例を基に,今後は海外展開や協業パートナーの拡大といった販路拡大施策やシステムの汎用性向上に取り組んでいく。また,取得したデータを有効活用することで,新たなデータサービスの創出にもつなげる。更に,FORXAI機能を充実させることでパートナー企業との共創を発展させ,共創により新たな顧客価値創出を行っていく。
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まとめ
FORXAIは,デジタル社会の構築において,コニカミノルタのDX推進の要となる。
コニカミノルタがこれまで培ってきたEdge Device技術,IoT Platform技術,Imaging AI技術を活用して,顧客ニーズの多様化に即時に対応し,最適化することで,FORXAIを軸としたデジタル社会の構築を目指す。また,FORXAI 技術を活用した人流マーケティング事業では引き続き丸紅ネットワークソリューションズ株式会社との協業でお客様への価値提供を行っていく。
ここで紹介した事例に限らず,コニカミノルタはFORXAIを使ってパートナー企業と共にビジネスを広げ,エコシステムを構築し,デジタル社会の発展に貢献していく。