製造業の現場において、生産性を測る基本的な指標のひとつが「稼働率」です。設備の生産性や運用効率を正しく評価し、現場の課題を可視化するためには、稼働率の正確な把握が欠かせません。しかし、現場では「稼働率」と同じ読み方ができて、意味が異なる指標「可動率(べきどうりつ)」が混同されるケースもあります。
本記事では、稼働率の定義や可動率との違い、計算方法のほか、改善のポイントなどを解説していきます。
目次
製造業における稼働率とは、設備やラインにおいて想定している生産能力に対して、実際にどれだけの時間稼働したか、あるいはどれだけの数量を生産したかを表す指標です。
稼働率を把握する主な目的は「自社の設備がどの程度活用されているか」を測ることにあります。例えば、1日100個生産できる能力がある設備で、顧客からの注文に合わせて80個生産している場合、生産量を基準とした稼働率は80%です。
一方で、需要が急増した際には、残業や休日出勤などによって想定以上の運用を行うことがあり、その結果として稼働時間を基準とした稼働率が100%を超えるケースもあるでしょう。その場合は、本来想定している生産能力を超えて、無理をして稼働している状況といえます。
なお、稼働率の算出基準は現場によって異なります。生産能力を想定する際に、定時時間での稼働を基準にする現場もあれば24時間の稼働を基準にする現場もあるため、現場ごとに算出基準と定義を明確に定めて認識のずれをなくすことが重要です。
稼働率と混同されやすい言葉に「可動率」があります。製造現場では、稼働率と区別するために「べきどうりつ」と呼ばれることがあります。需要による影響を受けない点が、稼働率と異なります。
可動率は「設備を動かしたいタイミングで正常に動かせる状態にあったか」を示す指標です。可動率が低下するのは、例えば故障による停止や材料詰まりなどによる停止が発生した場合で、製造業ではこうしたトラブルを避けて100%に近づけるのが理想です。
一方、稼働率は、注文が少なければ設備の状態がどれほど万全であっても下がります。これは、売れる分だけを作り過剰在庫を避けるという考え方からすれば、必ずしも悪いこととはいえません。
可動率は、設備の信頼性を表す数値であるため、稼働率のように需要によって変動することはなく、100%を超えることもありません。この両者を明確に区別して確認すれば、稼働率が低い場合に、その原因が「仕事が足りないせいか(営業や生産計画の課題)」「機械がトラブルを起こしているせいか(製造や設備保全の課題)」を切り分けて対策を打つことが可能になります。
稼働率は、経営計画や生産計画の達成度を測るために算出されます。生産時間で測る場合と、生産量で測る場合があり、それぞれの計算式は下記のとおりです。
<稼働率の計算式>
・生産時間で測る場合:稼働率(%)=実際の稼働時間÷想定された稼働時間×100
・生産量で測る場合:稼働率(%)=実際の生産量÷想定された生産量×100
例えば、1日8時間稼働を想定している設備があるとします。その設備で製品を製造したものの、発注数が想定よりも少なく注文された製品を製造するのに6時間しか動かす必要がなかった場合の稼働率は、下記のようになります。
<発注数が想定より少ない場合の計算例>
稼働率=6時間÷8時間×100=75%
一方、同じ設備で発注数が増え、残業や夜間運転を行って合計10時間稼働させた場合の稼働率は、下記のとおりです。
<発注数が想定より多い場合の計算例>
稼働率=10時間÷8時間×100=125%
このように、稼働率は想定された計画に対する割合であり、実際には計画を超えて稼働することもあるため、100%を超える数値が出る点が特徴です。
可動率は、一般的には下記の計算式で求められます。
<可動率の計算式>
可動率(%)=設備が実際に稼働していた時間÷設備を稼働させようとしていた時間×100
例えば1日8時間稼働させようとした設備が、材料の詰まりや突発的な故障で合計1時間停止してしまい、実質7時間しか動かなかった場合、可動率は下記のようになります。
<可動率の計算例>
可動率=7時間÷8時間×100=87.5%
例えば、「朝8時から夕方17時までラインを回すと決めたのに、実際にはどれだけ時間的なロスが出たか」といった現場の質を評価するのが可動率です。可動率は100%を超えることはなく、100%に近ければ近いほど「故障などのロスのない、手入れの行き届いた現場」といえます。
稼働率や可動率だけでは見えてこない「生産設備の効率の良さ」を総合的に評価する指標が、設備総合効率(Overall Equipment Effectiveness:OEE)です。設備総合効率は、下記の3つの要素を掛け合わせて算出します。
<設備総合効率の計算式>
設備総合効率=時間稼働率(可動率)×性能稼働率×良品率
時間稼働率とは、上述した可動率に相当する概念です。突発的な故障による設備停止など、計画外の停止によるロスを評価します。
また、性能稼働率とは、設備が動いている時間の中で、設計上のスピード(基準サイクルタイム)どおりに生産できたかを評価する指標です。機械の老朽化などで本来のスピードが出せない速度低下ロスや、数分程度の微細な停止を指すチョコ停ロスが、性能稼働率を低下させます。「動いてはいるものの、低速でしか稼働できていない」といった状態はこの指標で浮き彫りになります。
加えて、良品率とは、生産された製品のうち「良品」として評価できた製品の割合です。製造工程の質に問題があり、不良品が多く発生すると良品率は低下します。
設備総合効率を指標として活用すると、例えば「設備が停止せずに稼働できている時間は長いが(時間稼働率)、実は製造スピードが遅く(性能稼働率)、しかも不良品が多い(良品率)」といった、数字の裏に隠れた非効率さを把握することが可能です。製造業の世界では、一般的に設備総合効率が85%以上だと高水準といわれていますが、まずは自社の現状をこの3軸で把握することが、真の生産性向上への近道です。
良品率について詳しくは、下記の記事をご覧ください。
良品率とは?計算方法や歩留まりとの違い、改善策を解説
稼働率が高くなると、固定費の回収効率が向上する点は、経営的な観点でのメリットといえます。製品1個あたりにかかる設備の減価償却費や人件費などの固定費を圧縮できていることになるため、そのような観点では利益率を上げやすくなっているといえるでしょう。
しかし、稼働率は高ければ高いほど良いわけではありません。稼働率が常に100%を超えるような状態は、設備と、それを運用している人員が無理して稼働している状況でもあります。
例えば、設備がメンテナンスの時間すら確保できないほど酷使されているかもしれません。そのようなケースでは、近い将来に重大な故障を招く可能性があります。また、人員に過剰な負荷がかかり続ければ、ヒューマンエラーによる事故や品質トラブルが発生しかねず、離職率の上昇を招くおそれもあります。
理想的な状態は、需要に応じて設備や人員に無理をかけない範囲で最適化することです。具体的には、常に100%に近い状態を目指すのではなく、需要変動、保全時間、設備制約を踏まえ、必要な余力を確保できる水準に設定しすることで、急な需要増や突発的な故障にも柔軟に対応できる現場が作れます。ただし、理想の稼働率は業界や企業戦略によって変わってくるため、自社の状況に応じて適切に検討することが重要です。
稼働率の低下を招く要因を特定するためには、現場で発生している「ロス」を細分化して捉える必要があります。主に下記のようなロスが、稼働率を低下させる要因となります。
故障ロスとは、設備の突発的な故障による停止です。数時間に及んで設備が停止した場合、膨大なロスになります。故障ロスへの対策としては、トラブルが起きてから直すのではなく、異常の兆候を捉えて長時間の停止が発生する前に対処するのが効果的です。
段取り替えロスとは、多品種を同じ設備で生産する現場で、製品切り替えに伴う金型の交換、清掃、刃具のセッティングなどで発生するロスです。このロスを削減したい場合は、生産計画を最適化し段取り替えの頻度を減らしたり、段取り替えの順序を工夫したりすることで部品交換などがやりやすくなり、時間を短縮できるケースがあります。
刃具交換によるロスとは、劣化したドリルや砥石などの交換で発生するロスです。寿命を迎えた刃具を使い続けると、加工精度の低下などを招く可能性があるため、最適なサイクルでの交換は避けられません。
刃具交換によるロスを少しでも減らしたい場合は、生産条件の見直しを行うことで刃具摩耗、劣化を軽減させたり、耐久力の高い刃具を導入したりするといいでしょう。
立ち上がりロスとは、休日明け、休憩後などで設備を起動する際に生じるロスのことです。例えば、設備の温度、圧力といった条件が安定するまでの待ち時間などがあります。
人員の起動手順の習熟度がロスの大きさを左右するケースもあるため、研修やマニュアルの整備で改善できる可能性があります。
チョコ停ロスとは、「何かがセンサーにふれた」「部品が少し引っかかった」といった軽微な理由で、設備が短時間停止するロスです。作業者がその場で復旧させてしまうため日報に載りにくく、「見えないロス」として蓄積しやすい性質があります。短時間のロスでも、積み重なれば稼働率に与える影響は大きくなります。
不良・手直しロスとは、不良品の発生そのものによる損失と、それを手直ししたことによる損失の二重のロスです。不良品を生産するのにかかった時間がロスになることに加え、その不良品を手直しして良品にするために本来不要な稼働時間を割くこともロスといえます。
不良品の発生を抑えることが根本的な対策となるため、発生原因の究明と再発防止策の検討が必要です。
速度低下ロスとは、機械の劣化や人員の作業速度の低下などによって、想定されたスピードよりも落として設備を運転することにより発生するロスです。生産量が減少するため、生産量を基準とした稼働率の悪化を招きます。なお、生産のスピードが落ちても設備の稼働時間は変わらないため、生産時間を基準とした稼働率は悪化しません。
設備の本来の性能を発揮できていない状態であり、設備投資の回収を遅らせる要因となります。
部品ロスとは、製造に必要な部品が届かない場合に、設備を動かせない時間が発生するロスのことです。このロスは、物流トラブルや、規格に適合しない部品が届いたことなどが要因となって発生します。
ボトルネック工程ロスとは、ライン内で最も生産性の低い工程(ボトルネック)によって、ほかの工程が待機することで発生する時間的ロスです。ライン全体の生産能力はボトルネック工程の生産能力を超えられないため、全体の稼働率を引き下げる要因となります。
稼働率を改善するには、上記に挙げた要因に対し個別に対策を講じることが基本となりますが、テクノロジーと管理手法の両面からアプローチする観点が重要です。着眼すべき改善のポイントとしては、下記の4点が考えられます。
故障ロスを改善するには、予防保全、予知保全が有効です。
予防保全は定期的な点検やメンテナンスを行う方法です。なお、予防保全は劣化の有無にかかわらず行うため、費用や工数の無駄を生じることがあります。
一方、予知保全は設備・機械の故障の兆候を事前にセンシングし必要に応じメンテナンスするものです。予知保全であれば、無駄なコストを削減できるメリットがあります。
予知保全では、IoT・AIの活用が有効です。例えば、IoTセンサーで振動、音、温度、電流値などのデータをリアルタイムで収集し、AIが「いつもと違う挙動」を検知すれば、壊れる前に部品交換やメンテナンスを行うことが可能になります。
予防保全、予知保全を行うことで突発的な故障による長時間の停止を防げる可能性が高まるため、稼働率の改善が見込めます。
ライン全体の稼働率の改善には、ボトルネック工程の強化が欠かせません。そのためには、工程ごとの稼働データを詳細に分析し、停止時間や処理速度を可視化しましょう。
分析によってボトルネックとなっている工程を把握したら、その工程に優先的に人員を配置したり、自動化設備を導入したりすることで、ライン全体の生産量を底上げして全体の稼働率を改善できる可能性があります。
市場ニーズが多様化している状況では、特定の製品しか作れないラインは需要の変動に弱く、稼働率が不安定になりがちです。多関節ロボットや画像処理装置を活用し、プログラムの切り替えだけで多品種の製造に対応できるラインを構築することで、受注状況に左右されにくい安定した稼働率を維持できます。
「ベテランの担当者がいないと立ち上げに時間がかかる」「この人でないと機械の調子がわからない」といった属人化は、ノウハウを持った人員が不在になった場合に稼働率を低下させる要因となるため、改善が必要といえます。作業マニュアルの作成や、ベテランのノウハウを研修で共有する取り組みなどにより、誰でも高いレベルで設備を運用できる体制を整えることが重要です。
稼働率は、現場の稼働の健全性と設備の固定費の回収効率を確認できる指標です。可動率との違いを社内全体で正しく理解し、設備総合効率の視点も取り入れて生産工程のロスを把握することで、真に解決すべき課題が明確になるでしょう。
稼働率を改善するには、IoTやAIといった最新技術を導入し、客観的なデータにもとづいてPDCAサイクルを回し続けることが有効です。例えば、不良品の発生を抑えて稼働率を改善するためには、AIを活用した製造条件の最適化も有効です。
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稼働率とは、設備やラインが、想定されている生産能力に対し、実際にどれだけ稼働したかを示す指標のことです。生産時間で測る場合は「実際の稼働時間÷想定された稼働時間×100」、生産量で測る場合は「実際の生産量÷想定された生産量×100」といった計算式で算出します。
算出基準は現場によって異なるため、自社の状況に合わせて定義を明確に定めることが重要となります。
稼働率は需要の影響を受けるため、注文が少なければ設備が万全でも低下するのに対し、可動率は設備を動かしたいタイミングで正常に動かせるかを示す指標であるため、需要の影響を受けない点が異なります。
両者を区別して理解すれば、稼働率低下の原因について「仕事量の問題(営業・生産計画)」か「設備トラブルの問題(保全)」か切り分けて把握することが可能です。
稼働率は想定された計画に対する割合であるため、残業や夜間運転などで計画を超えた稼働を行った場合は100%を超えます。例えば、1日8時間稼働することを想定している設備で、実際には10時間稼働していたようなケースでは、稼働率は「10時間÷8時間×100=125%」です。
稼働率が常に100%を超えている状態は、設備・人員が無理して稼働している状況を示し、重大な故障やヒューマンエラーのリスクが高まっているといえます。急な需要増や突発故障に対応できる余力を持たせるためには、一般には稼働率を80~90%程度に維持することが理想とされています。