1
はじめに
近年の電気自動車、スマートフォンなどの蓄電池活用先の拡大は、蓄電池由来の火災事故のリスクを増加させている。また、相次ぐ半導体工場火災は半導体不足の遠因とされ、社会に影響を与えていた。こういった状況の中、コニカミノルタでは「より早く火災を検知したい」という顧客の要望に応えるため、「火災予防ソリューション」の提案を行ってきた。
ドイツに本社を置くMOBOTIX社製のサーマルカメラを活用し、非接触で表面温度の異常を検知することで火災予防を行うこのソリューションは、従来の天井設置型の煙感知器では検知が困難な天井の高い建屋や半屋外において非常に有用である。しかしながら、このソリューションを展開する中で、遮蔽物内や積みあがった可燃物の内部発火のような、サーマルカメラによる表面温度監視ではカバーできないようなケースにおいても、より早い火災検知を実現したいというさらなる顧客要望が寄せられ、それを実現するためには異なる技術的なアプローチが求められていた。
なお、前述のサーマルカメラの火災予防活用と、本稿で取り上げるアプリケーションFORXAI (フォーサイ) Safety Solution for Smoke Detectionは、日本国内における消防法が定める煙検知器等の消防設備ではないことを予め申し添える。
2
採用技術
前述の顧客要望を満足するため、コニカミノルタはカメラ映像から画像認識により煙を検知するアプリケーションFORXAI Safety Solution for Smoke Detectionを開発した。本章では、「画像認識による煙検知」という技術的アプローチ採用に至った経緯と、そのコア技術となる煙検知アルゴリズムについて説明する。
2.1 概要
前述の通り、サーマルカメラによる表面温度監視ではその原理上、遮蔽物内や積みあがった可燃物の内部発火のケースにおいて火災を早期に検知できない可能性がある。これらのケースに対応可能な技術的アプローチが必要となるが、従来の天井設置の煙感知器では、冒頭でも述べた通り、天井の高い建屋や半屋外においては検知が困難であるという問題があり、接触式の温度センサによる監視は、適用可能な監視対象が限定される上、監視領域が局所的になるという問題がある。そこでコニカミノルタでは、火災発生に伴う煙に注目し、カメラ映像から画像処理により煙を検知するというアプローチを採用した。これにより、先述の問題点を解決しつつ顧客要望を実現する事が可能となる。
「より早く火災を検知したい」という顧客要望を満足するには、火災初期段階の小さな煙でも検知ができる検知速度の実現が必要となる。また同時に、誤報頻発による顧客の業務阻害やシステムの形骸化を防止するため、誤報をいかに抑制するかもまた重要である。今回開発したアプリケーションに搭載した煙検知アルゴリズムでは、コニカミノルタのガス検知技術転用による煙検知、AIによる誤報抑制という2つの技術を組み合わせることで、これらの相反する要求を両立している。以下、その詳細について説明する。
2.2 ガス検知技術を転用した煙検知技術
コニカミノルタでは、赤外カメラを活用したガスカメラを開発し販売している。ガスカメラでは、参考文献1) のFig. 3に記載の通り、赤外画像上でガスの揺らぎによる温度変化を抽出し、参考文献1) のFig. 4のようにガスを可視化した画像を生成している。煙の場合にも同様に、可視画像上での煙の揺らぎに伴う輝度値の時間変化を抽出することで、Fig. 1の可視画像からFig. 2のように煙を可視化した画像を生成できる。
2.3 AIによる誤報抑制
従来手法では一定量噴出する煙を対象とし、既に火災が進行した状態でしか煙を検出できないという問題があった。また、煙のように多種多様に変化する物体を検出するために、動きベクトルを利用する手法が多いが、特に今回のように火災の火種となる初期の煙の場合、ゆっくり、かつうっすらと噴出するため、動きベクトルを元に煙を判断することは困難である。更に、煙が発生しうる場所では人や機械による何らかの生産活動が行われていることが多く、このように初期の小さく薄く、かつ変化が乏しい段階の煙を見落とすことなく検出しようとすると、画像の変化が大きい生産活動も煙として誤検出してしまうという問題があった。
未検出と誤検出はトレードオフの関係にあり、誤報頻発による顧客の業務阻害やシステムの形骸化を防止するため、変化が乏しくても煙であれば見落としなく検出しつつ煙以外には誤って発報しないようにするという、非常に難しい課題に取り組み以下のような処理のアルゴリズムを開発した(特許出願中)。
まず2-2で生成した画像から得られる被写体のゆらぎ情報をもとに煙候補を抽出する。この候補には生産活動も含まれてしまうため、ゆらぎ情報に加えて外観(可視画像)からも煙を判断するか否かを判定する処理を入れ、外観からも判断すべきと判定された場合には外観情報を使ったAIによって煙であるとの確信度の高い領域を抽出し、誤報が起きないよう抑制している。さらに、一定時間、同じ位置での検出が継続した場合のみ発報するようにしている。このように様々な観点から本当に煙であるかを何重にも検証し誤報抑制を行っている。(Fig. 3参照)。
3
FORXAI Safety Solution for Smoke Detectionの概要
FORXAI Safety Solution for Smoke Detectionの概要を示す。
3.1 システム構成
Fig. 4は本アプリケーションを使用した煙検知システムの構成を示している。本アプリケーションは解析サーバー上で動作しており、カメラ映像をVMS (Video Management System) サーバーから取得し、リアルタイムに解析を行うことで煙を検知する。検知結果はVMSクライアント上に表示されるカメラ映像上に重畳して表示することが出来る。また、VMSサーバーのアクション機能を利用して、例えば警告灯といったネットワークI/Oデバイスにより、各種通知を関係者に送ることも出来る。
3.2 製品開発における検証への取組と検知例
画像認識による煙検出を命題とした製品開発において、1つの大きな課題は、いかにして発煙状態のデータを収集し、製品開発にフィードバックしていくかであった。防災・安全上の問題から、斯様な実験データを取得できる環境には限りがあり、データ取得可能な環境確保は困難を極めた。
また、実際の発煙状態を録画可能な環境が確保できたとしても、煙自体を制御してあらかじめ定めたタイプの煙を発生させることも極めて難しく、データセット自体のバリエーション確保も容易ではなかった。
開発過程においては、人工的かつ安全に疑似煙を発生可能なスモークマシンも利用したが、その際火災初期の小さな煙を再現するために、流量調整機能を兼ね備えた装置を開発し利用することで、データセットの確保に努めてきた。
本アプリケーションの実際の検知例を以下に示す。赤い線で囲まれた領域は検知された煙の位置を表している。
4
まとめ
画像認識による煙検知は、既存の防犯カメラ画像活用の可能性や、他のAI機能を追加していくことによる多様なデータ利用の可能性を秘めているほか、ソフトウェアベースの技術であることから、アップデートや機能拡張が容易であり、柔軟性と拡張性を備えているといえよう。FORXAIはコニカミノルタのDXを活用した製品サービスの中核の1つであり、Edge Device技術やImaging AI技術も駆使して社会のDX化の加速を目指すなかで、今後もFORXAI Safety Solution for Smoke Detectionの改良・拡張を行い、火災の早期発見や迅速な対応によるDXを支援し、社会における安全・安心の確保に貢献していく。