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はじめに
1.1 業界背景
国内における健康寿命と平均寿命との間には約10年のギャップがあるとされており、この不健康な期間の長期化が医療費高騰を始めとした様々な社会課題の要因となっている。人生100年時代と言われる現代においては、健康であり続けることもさることながら、たとえ多少の疾患を患っていても今の生活を続けられることが、個人にとっても社会にとっても価値があり、いま健康寿命の延伸が求められている。
健康寿命の延伸には、生活習慣病を中心とした疾患の早期発見や重症化予防が重要である。これにはプライマリケアを担うかかりつけ医への期待が大きいところであり、従前以上に患者個人の生活に寄り添った診療や、患者による自己治療の継続のため医療従事者など周囲からの支えが必要となってくる。また、診療外での自己治療は患者一人では継続し難く、自己判断で治療を止めてしまう事も少なくない。
一方、かかりつけ医を取り巻く現場の課題も山積している。特に担い手不足の課題は深刻で、医療機関としては経営も重視せざるを得ないため、患者と向き合った丁寧な診療の時間の確保が難しく、また患者個人の状態に最適な指導を提供するための情報も患者からの問診や聞き取りだけでは不十分であるため、患者に寄添った診療の提供を望みながらも満足にできないのが現場の実情である。
コニカミノルタが医療機関向けに提供するクラウドサービス「infomity」は、医療機関の経営支援や医療品質向上をサポートする数多くのサービスメニューをラインアップし、約15年間の安定稼働実績を誇っている。診療所を中心とした医療機関のDXを支援するサービスとして多くの顧客に利用して頂いている本サービスを、新しく患者にも届けるサービスとして進化させ、国内を取り巻くこうした社会課題や医療現場課題の解決を図っていく。
1.2 infomityスマートクリニック
このような課題に対してコニカミノルタでは、患者と医療機関を繋ぐことにより治療効果の最大化を実現する「infomity(インフォミティ)スマートクリニック」を2023年に開発した。本サービスでは、外来診療からは得られない日常の患者の健康状態を連続データで把握し医療機関と共有することにより、その患者にとって最適な診療や指導の提供を可能とする。また医療機関から患者に対してのメッセージや検査結果などの医療データを共有する医療情報相互コミュニケーションを通じて患者自身へ気付きを与え、行動変容を促すことで治療継続を実現し、疾患の重症化を予防することを狙いとしている。
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infomityスマートクリニックの紹介
2.1 infomityスマートクリニックの特徴
infomityスマートクリニックは、医療機関向けアプリケーションと患者向けアプリケーションで構成され、慢性疾患患者を中心に、医療機関と患者とのコミュニケーション強化を図るサービスである。(Fig. 1)
本サービスは汎用パソコンのみならず、コニカミノルタの提供するPACS(医療⽤画像保管・転送システム)端末上でアプリケーションの利用を可能とし、追加投資(端末)の抑制、診療フローの効率化、セキュリティーの担保も実現している。また患者向けアプリケーションは、普及率の高いSNSとの連携を実現することにより患者のアプリケーション導入障壁を低減し、サービス利用の加速による患者エンゲージメント向上にて患者定着化を図る。
2.2 infomityスマートクリニックの機能
infomityスマートクリニックは、病院、クリニックから患者への情報配信機能と、患者による健康管理機能を備えている。
患者への情報配信機能には、1)SNS連携を活用したメッセージ配信機能、2)血液検査結果や検査画像といった医療データの送信機能の二つの機能がある。
1)SNS連携を活用した休診日やイベント等のメッセージ配信機能では、LINE公式アカウントと連携し、患者が医療機関とお友達登録を行うことで、医療機関はinfomityスマートクリニックアプリケーションから患者のスマホのLINEアプリケーションへメッセージの配信を可能とするものである。(Fig. 2)これにより、医療機関は患者にダイレクトに情報を配信できるようになる。必要に応じて、全員配信、絞り込み配信、個別配信などの配信パターンの選択も可能で、例えば休診連絡は全員配信、特定健診情報は年齢や性別といった対象グループのみの絞り込み配信、予約患者への個別配信など、その用途に合わせた情報の配信が可能である。
加えて、LINEトーク画面上に患者が利用する機会の多いサービスメニューをプリセットしておくことも可能である(リッチメニューの設定)。インターネットのお気に入り登録と同様に、医療機関のホームページにダイレクトにアクセスをしたり、医療機関への架電、診療時間の確認、その他のアプリケーションの起動などその利用用途は広く対応が可能である。(Fig. 3)
2)医療データの送信機能では、医療機関で得られたX線検査画像や血液検査結果を患者に送信し、患者向けスマートクリニックアプリケーションで参照することが可能である。これら医療データについてはセキュリティーの観点より、データ受信についてはLINEアプリケーションを通じて患者に到着通知を行うが、データ参照はセキュリティーの担保された環境下で起動するスマートクリニックアプリ上でのみとすることで、安心・安全なデータ管理を行う。本機能は既存サービスである「infomity連携BOX」を活用することにより、コニカミノルタの提供するPACS上で管理されている画像データを始めとした医療データを安全に送信することを可能としている。(Fig. 4)
加えて、血液検査の結果についても患者と共有が可能となっている。血液検体は採血後に検査機関に送付されるため後日通知を行う必要があり、検査機関からの血液検査結果は紙によるレポートが医療機関に郵送されるケースが多い。infomityスマートクリニックはスキャンした紙の血液検査結果から患者IDを光学的文字認識 (Optical Character Recognition, OCR)にて自動読み取りを行う事で、登録されている患者データと整合を取り、人的な患者取り違いリスクを軽減する機構を搭載している。(Fig.5)
また、患者向けアプリケーションは、医療機関から送信された医療データの参照機能に加え、患者による健康管理機能を有しており、血圧、服薬、体重、気分、日記、食事、血糖値といった日常の健康データの記録が可能である。(Fig. 6)またこれら登録されたデータは患者自身が体調を振り返る為に参照することは勿論のこと、医療機関側のアプリケーション上でも参照が可能なため、医療機関側にとっては、診療所外の患者の日常データを取得することで、より具体的な患者の状態の把握を可能とし、個別最適な患者に向けての診療・指導が行える。(Fig. 7)
2.3 infomityスマートクリニックの社会的価値
infomityスマートクリニックの市場リリースに先立って行った実診療所におけるProof of Concept(PoC)において、本サービスの利用前後で患者の病気への向き合う意識に明確な差異が見られた。スマートクリニックアプリケーションの利用者(患者)は、日常の健康データの入力と、医療機関からのメッセージ・医療データの受信、参照を行っていただいたが、9割以上の患者が「病気への向き合い方に変化があった」とアンケートで回答している。「健康管理のための努力をしようと思った」、「先生と繋がることが安心につながる」、「自身の状態が分かるので不安が軽減される」、「先生からのメッセージが楽しみ」といったコメントが確認されており、意識の変化が生じていることは明白である。
また、アプリケーションへの体調記録も8割以上の患者がほぼ毎日入力を行ったと回答しており、意識の変化に伴い行動変容も確認されている。
患者一人では治療の継続が難しいとされる生活習慣病の日常における健康管理であるが、本サービスで医療機関と繋がることでその意識改革や行動変容が促されることは健康寿命の延伸に寄与する事が期待される。一日でも長く健康でいられることは国民の希望に応える事でもあり、また医療費高騰の抑制の一端をも担う事が期待される。
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まとめ
3.1 総括
コニカミノルタは、医療機関に価値を提供する既存のinfomityサービスを進化させ、患者にも価値を提供する「infomityスマートクリニック」を開発した。本サービスにより医療機関の業務効率化のみならず、患者の健康寿命の延伸に寄与することが可能であり、今後も医療費高騰を始めとしたさまざまな社会課題の解決につなげられると考える。
3.2 今後の展望
infomityスマートクリニックは患者と医療機関を繋ぐ基盤として社会実装がスタートした。今後は患者の健康管理を支援する機能を強化し、更には医療業務効率とデジタルでの治療効果最適化を図る取り組みを推進していく。
患者の健康管理の支援に向けては、医療機関と患者の繋がりから家族ともつながる仕組みへと拡張し、家族によるサポートも加えていく。医療機関での検査や診療の結果などを家族と共有することで、患者自身の安心にもつながり、また同様に離れて暮らす家族の安心にも繋がる。その後も、国策で進められている全国医療情報プラットフォームとの連携によりinfomityスマートクリニックで管理する医療データの質を向上させ、患者に最適な治療をデジタルで提供するアプリケーションへの進化までを展望している。
コニカミノルタは今後も医療機関にとって、国民の健康にとってなくてはならない社会インフラ化を目指してサービスの拡張を図っていく所存である。