1 概要
近年、原材料調達のリスクとなる事象が多様化・頻発化しており、サプライチェーン全体に影響が及んでいる。調達リスクには、例えば、生産中止、輸出規制、自然災害、国際情勢の変化などがある。調達部門ではそう言った調達リスクになりえる世界のニュースを手作業で収集しているが、属人性が高く、情報の網羅性や鮮度に課題が残る。
そこで本報告では、調達リスク情報を含むニュースを自動で収集し、ニュースの重要度を自動判定するマルチエージェントシステム(MAS)を提案する。本MASは大規模言語モデル(LLM)を組み込んだ複数のAIエージェントで構成されるLLM-based Multi Agent System 1)である 。PoCの結果では、従来に比べ約96%の工数削減を達成した。また、本MASから配信されたニュースを起点としたサプライヤーへのヒアリングなど具体的なアクションも確認できた。
2 詳細
■構成
本マルチエージェントシステム(MAS)は、ニュースの取得経路に応じて2つの構成を有しており、1つはサプライヤー企業のニュースリリースを対象とするニュースリリース構成、もう一方はあらかじめ設定したキーワードを用いてWeb上のニュースを検索するキーワード検索構成である。
各構成でのフローおよびMAS内のエージェント構成は以下の通りである。なお、Proxy Agentはユーザーの代理となり他のエージェントとの対話を進めるエージェントである。(Fig. 1)
Fig. 1 マルチエージェントシステムの処理フロー
STEP1:ニュース抽出
<ニュースリリース構成>
Websurfer Agentがサプライヤーのニュースリリースが掲載されたWeb ページの情報を取得する。その後Assistant Agent が取得されたWeb ページの内容からニュースの抽出、要約、翻訳を行う。
<キーワード検索構成>
ニュース検索APIを用い、あらかじめ定義されたキーワードで、関連ニュースを検索する。
STEP2:ニュース評価
Procurement Agent-1stが取得したニュースに対して重要度に応じたフラグとその理由を付加する。
Procurement Agent-1stには調達部門の知見やノウハウがプロンプトにより与えられている。
STEP3:反復処理
STEP1〜STEP2を調査対象となるすべてのサプライヤーやキーワードについて実行する。
STEP4:重要ニュース選別
Procurement Agent-2ndが過去の重要ニュースとそのニュースが重要と判断された根拠を用いて、特に重要と判断されるニュースに対してそのニュースのフラグを最重要フラグに更新する。
STEP5:配信
最終的なニュースリストを調達部門に向けて配信する。
■機能/特長/用途
社内で実施した3ヶ月のPoCでは、約96%の工数削減を達成した。(システムによるニュースリストの確認は0.25 時間/日に対して、同等のニュースを人手で収集し重要度を判断するには約6時間を要する。)
また、PoC期間中に本システムが通知したニュースを起点として、Table 1に示すような具体的なアクションも発生した。本システムによりリスク情報が早期に発見できたことにより、迅速な対応が可能となった。(Table 1)
Table 1 PoC 期間中に発生したアクション件数
■今後の展望
今後は、リスクのあるニュースを抽出・提示するだけでなく、そこから具体的な対応策や意思決定を導くまで伴走できるパートナー型AIへと発展させていきたい。これにより、調達リスクの早期発見から対処までを一貫して支援する仕組みを目指す。
出典
本報告は、日本オペレーションズ・リサーチ学会2025年秋季研究発表会の予稿集2)の内容を再編集したものである。