巻頭言
巻頭言
150年間磨き続けたコア技術をAIで進化。
社会が求める “みたい” に応え続ける Evolving core technologies that have been refined for 150 years with AI and continuing to meet society’s hopes and desires to “see”

コニカミノルタ株式会社
常務執行役 技術担当
兼 画像IoTソリューション事業部 担当
兼 映像ソリューション事業部 担当
江口 俊哉
Toshiya EGUCHI
Executive Vice president and Executive Officer
Responsible for Technologies, Imaging-IoT Solution Business
and Visual Solutions Business
KONICA MINOLTA, INC.
経営方針とビジョン
当社はサステナビリティ(持続可能性)を経営の中核に位置づけています。2030年のあるべき「持続可能な社会を目指し、「気候変動への対応」、「有限な資源の有効活用」、「働きがい向上および企業活性化」、「社会における安全・安心の確保」、「健康で質の高い生活の実現」の5つを、「今なすべきこと」:「5つのマテリアリティ(重要課題)」として、各事業が価値創造に取組んでいます。
各事業が取組む価値創造における最大の強みは、カメラ・写真用フィルムを原点にした「イメージング技術」です。長期の経営ビジョンに「Imaging to the People」を掲げ、当社はイメージング技術、すなわち「見えないものを“みえる化”する力」によって様々な商品やサービスを生み出し、人々の「みたい」想いに応えてきました。
創業以来150年の技術史
1873年の創業以来、当社は150年にわたって、カメラ・フィルム事業で培った4つのコア技術(材料、光学、微細加工、画像)と関連技術を組み合せ、様々な事業分野を開拓してきました。
カメラ事業では、ガラス光学レンズ、レンズ形状を精緻に作り出す微細加工技術、精密制御技術を開発。フィルム事業では、基材となる複合材料の技術に加え、鮮やかな画像を再現する色素、光を感じ取る銀塩粒子の技術を生み出しました。つまり4つのコア技術を当社のDNAとしながら、これを自在に改変することで新しい製品、事業を生み出し続けてきたのです。
カメラ用フィルムで培われた材料、画像技術は、高耐久・高精細な画質が要求される医療用レントゲンフィルムやディスプレイ向け光学フィルムの事業に応用されています。光学レンズの設計・微細加工技術は、CD/DVDピックアップ用レンズ事業として発展しました。カメラ技術とともに培われた光と色を計測する技術は、分光計測技術として進化。測光・測色計の事業拡大につながりました。さらに、材料、画像、光学、微細加工、精密制御など全ての技術が融合することで、複写機、ファックスなど、当社のオフィス事業へと大きく成長。20世紀後半以降は、これらコア技術にデジタル技術を取り込み、フィルムはX線検出パネルに。複写機、ファックスはデジタル複合機に、さらにはデジタル商業印刷機事業へと発展しています。
近年では、例として、一般X線撮影装置を活用したAIによる動画像診断の補助。自動車塗装の外観検査、商業印刷機におけるカラートナーの転写位置の検品・補正技術が挙げられます。また、材料分析技術へのAI応用を積極的に進めることで、機械学習を用いた新材料の合成や生産プロセスを自動化・最適化。製品の価値・品質の向上を実現しています。

マテリアリティの解決を軸とする各事業の技術開発
(1)環境問題を解決するための技術開発
当社は、2025年にカーボンマイナス。2050年にネットゼロ(自社責任により排出されたCO₂が対象)を宣言。自社および顧客の製造プロセスにおける環境対応技術の開発に積極的に取組んでいます。
例えば、紙以外の建材やディスプレイ、電子部品など様々な工業用途に活用するインクジェット技術による廃棄ロスの削減。商業印刷向けオンデマンド生産や、自動印刷検査で生産効率を高めることにより温室効果ガスを削減。これまで多量の溶媒や洗浄水を必要とした捺染インクに対し、染色時の廃水が不要なドライインク。使用済み製品から再生可能な樹脂の識別を可能にし、資源の再利用に貢献するハイパースペクトルカメラなどの活用技術に取組んでいます。
(2)労働力人口不足を解決するための技術開発
先進国では、労働力人口の減少がサステナブルな社会の根幹を脅かしています。人々が健康に、生き生きと働くことができる安全・安心な社会を実現するために、人々の健康を増進すると共に労働生産性を向上する技術が益々求められるようになってきました。当社は、医療・介護事業者、製造業、印刷業などのお客様にAIを活用した自動化や安全監視、働き方改革などのソリューションを提供しています。ヘルスケア領域では、遠隔診療が可能なクラウドICTサービスや、胸部X線撮像向けAI画像診断によって、どこからでも誰もが低コストで高度医療を利用できる社会を目指した技術開発を推進。また、インダストリや商業印刷領域では、労働力不足が顕著な製造業の外観検査や工程管理のAIによる自動化、危険な労働環境のAI画像認識による安全監視、自律走行搬送ロボットなどの開発を進めています。
コア技術とAI・データ駆動による製造プロセスの変革
爆発的なAI技術の進化は、製造業にもAI・データ駆動という新しい潮流をもたらしています。私たちは最新のAI技術とコア技術を組み合わせて、AI・データ駆動による次世代製造プロセスモニタリング技術を開発。自社と顧客の製造プロセスの変革に貢献します。緻密な製造プロセス管理によって省資源・省エネルギーを実現。人手作業の自動化で労働力人口不足を解消します。
当社の光学用フィルム製造工程のデータ駆動型化はその一例です。フィルムの製造工程では、高分子量ポリマーに各種添加剤を加えて溶媒を用いて溶解した後、バンドベルト上に流延。ベルトからの剥離、延伸工程を経て製品フィルムになります。生産設備に配置した多種多様なセンサーから、温度、圧力、音、画像などのデータを収集。生産設備の状態を統合的にAIで判断することで、生産条件を最適化したり故障を予測。安定した品質の生産を実現しています。
さらにAI・データ駆動型製造プロセスが進化すれば、人間が設計不可能な複雑な製造プロセスも実現すると考えています。
また、カーボンニュートラル実現のキーと期待されている技術に『バイオモノづくり』があります。『バイオものづくり』は単純な法則では扱えない複雑な現象であり、温度計、流速計、光学カメラなど多種多量のデータを収集するAI・データ駆動型生産が必須と言われています。多種大量のデータからAIによって有用なデータを抽出する技術。これを当社では『AI強化センシング』と呼び強化していきます。『バイオものづくり』のための製造プロセスモニタリング技術には、当社のインク、トナー、フィルムの製造工程の構築経験が生きると考えています。

本年度のテクノロジーレポートについて
本年度のテクノロジーレポートは、当社が強みとする4つのコア技術が150年の間にそれぞれの事業の中でどのように成長してきたかを紹介するレポートを集めました。また、それらコア技術がAIで進化した事例として、ディープラーニングによる人物行動認識や画像認識によるフィルム製造工程DX、プロセス・インフォマティクス活用などのレポートなど、当社の技術戦略の方向性を示す内容も紹介しております。尚、本年度よりテクノロジーレポートのフォーマットをPDF形式からWeb形式に変更しました。論文アクセスのしやすさや動画表示などでより深くご理解いただけるよう工夫しております。
最後に
経営ビジョンに 「Imaging to the People」 を掲げ、さまざまな社会課題の解決につながる価値を届けていきたいという私たちの思いは、これからも不変です。 「人々の“みたい”という想いに応えるために、自分たちは何ができるのか?」 を問い、先進技術を取り込みながら独自のイメージング技術を磨き続け、“新たな価値創造“を目指して取り組んでまいります。
───────────────────
発行者:コニカミノルタ株式会社
発行所:〒100–7015 東京都千代田区丸の内2–7–2 JPタワー