1
はじめに
近年、画像入力デバイスから得られる画像・動画の情報とセンサーデータを統合し、AI処理によって高度な認識・識別を行い現場サイドであらゆる課題を解決する画像IoT技術への関心が高まっている。また、激しく変化するビジネス環境に対応し素早くソリューションを創出するために、プラットフォームを活用したビジネスパートナーとの共創に大きな注目が集まっている。共創ビジネスのために活用されるプラットフォームには、パートナー同士の共創の生まれやすさだけでなく、価値提供を高速化できる仕組み、安定運用などが求められ、社会情勢を先読みしたプラットフォーム自身の継続的な進化は必需である。
コニカミノルタは、従来から培ってきた画像IoT技術を活かし、画像IoTプラットフォーム開発とそれを活用したソリューション開発に取り組んでいる。2020年には、業界・業種を超えた共創によって社会のDXを加速させるため、画像IoTのオープンプラットフォームであるFORXAIを立ち上げ、これまでにパートナー企業やお客様保有の技術を組み合わせて、様々なソリューションの創出に貢献してきた。1) 2)
FORXAIはIoT Platform、Edge Device、Imaging AIの3つの技術群から構成される。この中のFORXAI IoT Platformは、デバイスとクラウドを容易に連携可能とし、AIやアプリケーションを遠隔デプロイするなど、FORXAIの中核を担う共通基盤である。このため、前身の「CPSプラットフォーム3)」から今に至るまで、利用者のニーズに応えて継続的な進化を行ってきた。本稿では、FORXAI IoT Platformが共創を支えるために、これまで継続的に行った進化について詳述する。
2
FORXAI IoT Platformが担う役割
Fig.1にFORXAI IoT Platformの概念図を示す。IoT Platformはデバイスとクラウドをセキュアかつ容易に連携し、利用者はクラウドを経由して遠隔地のデバイスを操作や管理を行うことができる。デバイスが取得したデータや情報を高速・高度に処理し、解析・推定を行うImaging AIもIoT Platformを活用して管理・利用される。
先述の通り、FORXAI IoT Platformは様々なパートナーとともに価値を創出するプラットフォームであるため、共創が生まれやすい仕組みと、価値提供の高速化と安定運用を両立する必要がある。Fig.2が示すように、FORXAIを取り巻く共創環境においては、プラットフォーム提供者であるコニカミノルタ、デバイスやAI技術を開発する技術パートナー、顧客価値を提供するソリューションパートナーが互いのアセットを持ち寄ってエンドユーザーへ価値を提供している。FORXAIとしてのオープンプラットフォーム化にあたって、我々は各技術領域の機能の疎結合化と責任分界点の明確化を進め、技術の組み合わせによるソリューション実現を容易なものとした。また、プラットフォームとしての新規機能の提供スピードの高速化と日常的な運用コスト削減および安定運用を目的として、サーバーレス・マネージドサービスの活用や継続的インテグレーション・継続的デプロイの採用を進めた。
3
FORXAI IoT Platformの継続的な進化
パートナーとの共創を実現するために、我々はFORXAI IoT Platformを段階的に進化させてきた。これまで行ってきた進化のうち、特に重視した2つの観点「AI・アプリケーションの部品化と権利保護」、「価値提供の高速化と安定運用」について説明する。
3. 1 AI・アプリケーションの部品化と権利保護
3. 1. 1 Dockerコンテナによる部品化
デバイス開発者・AI開発者・ソリューション開発者といった立場の異なる開発者による共創を加速するためには、「擦り合わせ型開発」から「組み合わせ型開発」への転換が有効である。予めハードウェアやAIを部品として用意しておくことで、ビジネスの要求に応じて部品を選定し、組み合わせることでソリューションを構築するのである。
我々は、この実現手段としてDockerコンテナによる仮想化技術を採用した。コンテナ型仮想化では、OSの上に「コンテナ」と呼ばれる仮想的なユーザー空間を提供する。各提供価値が依存するソフトウェアライブラリも含めて仮想的なユーザー空間に閉じ込めることで、あたかも部品の様に独立して取り扱うことができる。あるコンテナ内の機能を別のコンテナに対して提供する際は、APIを定めてコンテナ間通信により利用する方針とした。
これらの取り組みにより機能間の疎結合・責任分界点の明確化を実現し、提供価値の部品化が促進された。(Fig.3)
3. 1. 2 AIの権利保護
FORXAIはパートナーが提供する技術を流通させる場としての機能を担うため、提供技術の権利保護については重点的に対策を行う必要があった。前述の通り、FORXAI IoT Platformは遠隔地に設置されたデバイスに対して、AIアルゴリズムをリモートデプロイすることができる。このことは、悪意を持った第三者にとっては窃取・改ざん・不正利用をしやすい環境であることを意味する。
そこで、我々は以下に示す仕組みを導入することで、AIモデルを保護することにした。
・ライセンスが供与されたFORXAI対応デバイス上でのみAIの稼働を許可する
・遠隔地のデバイスに払い出されたライセンスを無効化し、AIの稼働を停止することができる
これらの対策により、技術パートナーが安心してAIを提供・流通させることができるようになった。
3. 2 価値提供の高速化と安定運用
3. 2. 1 サーバーレスアーキテクチャとInfrastructure as a Code
一般に、システム開発ではコア機能を提供するためのサーバーやOS、ミドルウェアなどのインフラの構築・選定が必要になる。加えて、バックアップや監視の仕組み、開発終了後のパッチ適用やログローテーションといった、非機能面での設計・実装も必要とされる。これらの取り組みに対するコストを削減し、プラットフォームとしての価値向上に注力するために、FORXAI IoT PlatformではFig.4に示す通り、Amazon Web Services(AWS)のマネージドサービスを積極的に導入し、完全にサーバーレスなアーキテクチャとした。これにより、サーバー・ミドルウェアの構築が不要となるのみならず、利用規模に応じたスケーリングや情報資産のバックアップといった非機能面がマネージドで実現されるため、多くの工数をコア機能開発に充てることができた。開発終了後の運用においてもインフラの保守から解放されたため、我々はアプリケーションのメンテナンスに専念できるようになった。
また、これらのクラウド上のインフラ構築は、従来の様にマニュアル作業で実施するのではなく、インフラ構築手順自体をコーディングすることにより作業を自動化した。これをInfrastructure as Code(IaC)と呼ぶ。IaCによる自動化は、作業者のスキルに依らず冪等性を担保できるようになったり、構築が短時間で完了したりするのが特徴である。つまり、同じ構成をいつでも・いくらでも構築できるようになる。このIaCの導入により、例えば海外のビジネスニーズに応じて素早く現地リージョンにシステムを設営することができるようになり、FORXAIのグローバル展開を支えている。
3. 2. 2 継続的インテグレーション(CI)
これまで述べてきたように、FORXAI IoT Platformでは開発・運用の両方で効率化を図っているが、加えて継続的にプラットフォームを進化させるために、継続的インテグレーション(CI)の手法を取り入れている。Fig.5にCIのフローを示す。
Gitリポジトリ上のソースコードが更新された際に、自動でソフトウェアのビルド・テストが実施されるように実現したため、更新の度に品質確認が徹底されるようになった。さらに、Gitリポジトリのバージョンタグに応じて、先述のIaCの仕組みを活用してソフトウェアをAWSのテスト環境へ自動デプロイしており、人的ミスを抑制しつつ、気軽に動作確認できる環境を実現している。 また、機能仕様書をはじめとするドキュメント類の共有にも工夫をしている。テキスト整形や全文検索が可能なフレームワークを採用しており、ドキュメントもMarkdown形式で記述している。これらとGitの組み合わせにより、Gitリポジトリ上のMarkdownファイルの修正に合わせて自動的にビルドとWebサーバーへのアップロードを行うようにした。最新仕様を直ちに閲覧できるようにしたことで、様々な立場の関係者間でのナレッジ共有に一役買っている。
4
まとめと今後の展望
本稿では、FORXAI IoT Platformの継続的な進化を、「AI・アプリケーションの部品化」、「権利保護とセキュリティ」、「価値提供の高速化と安定運用」の3つの観点から紹介した。
「AI・アプリケーションの部品化」観点においては、コンテナ型仮想化技術を用いたソフトウェア部品化により、様々な立場のパートナーと共創を行う下地をつくることができた。
「権利保護とセキュリティ」観点では、AIモデル保護やライセンス管理を強化し、FORXAIを安心して利用頂ける環境を整備した。
「価値提供の高速化と安定運用」の観点では、完全サーバーレスやIaC、CIの導入により、品質と提供スピードを両立し、変化する顧客価値への迅速な追従を実現した。
我々は、今後もFORXAI IoT Platformを継続的に進化させることでパートナーとの共創を加速させ、FORXAIが目指す「人間社会の進化」に貢献する所存である。