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はじめに
近年、スマートフォンなどの小型 IT 機器を中心に微小面の色管理のニーズが増えているが、既存の測色計では測定できない、あるいは、測定に多くの手間が掛かるという課題があった(Fig. 1)。
Fig. 1 Comparison of small area color measurement method.
従来は、測定サンプル保持用のトレーを測定サンプル毎に作成し、測定の際には三軸ステージなどを用いて位置合わせを行う必要があり、前準備と測定作業に多くの時間を要していた。それに対して、イメージング分光測色計を用いることで、まず二次元で広い範囲のデータを取得して、所望の領域を指定してデータを出力することが可能になり、正確な位置合わせの手間を無くすとともに、複数点を同時に測定することが可能になり、微小面の色測定の手間を飛躍的に改善することができる。
こうして、二次元での測色が可能になることで、より微細な領域を測定したい、領域指定をより簡単に行いたいなどの新たな要望も生まれる。これらに対して、実際の顧客ワークフローに適した改善を進めていくためには、ユーザーも巻き込んだソリューション開発が必要と考え、SPECIM 社のハイパースペクトルイメージング(以下、HSI と略記する)技術を用いてハードウェア開発を行うことで、効率的に短期間でイメージング分光測色計 HSI–1d(Fig. 2)
の商品化を行った。
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SPECIM社が保有するHSI技術
2. 1 SPECIM 社の概要
SPECIM 社はフィンランド・オウル市を本拠に 1995 年に創業した、HSI 技術のリーディングカンパニーである。
HSI の黎明期より技術をリードし、各種研究機関と連携して HSI 用途を開拓、普及し、事業として立ち上げてきた。近年では、“SPECTRAL IMAGING MADE EASY” のスローガンの元、これまで研究用途メインだった HSI を、各種インダストリー用途に展開すべく、各種装置への組み込みが容易な HSI デバイスの開発、販売に注力している。
2020 年 12 月にコニカミノルタのグループ会社となり、販売面、技術面での展開強化を加速させている。
2. 2 SPECIM社のHSI技術
SPECIM 社のHSI は、プッシュブルーム(ラインスキャン)方式を採用している。スリットを通過した線状イメージを分光し、二次元センサで位置情報×分光データとして取得する(Fig. 3)。さらに、カメラ若しくは被写体を動かすことで二次元分光データを取得することができる。プッシュブルーム方式は、フィルタ方式に比べるとより高速に測定できる傾向がある。
SPECIM 社のハイパースペクトルカメラは、可視光から遠赤外領域まで、幅広い波長域に対応するラインナップで、R&D やインダストリーの幅広い用途で活用されている。特に、産業向けのインライン検査装置への接続、組み込みを容易にし、黒色プラスチックの弁別をも可能にした SPECIM FX シリーズや、撮像、分類、表示が All–in–One パッケージで可能な SPECIM IQ など、顧客の課題解決に寄り添った製品展開が特徴である。
2. 3 SPECIM IQ
SPECIM IQ(Fig.4)は前述のとおり、分光データの取得から、分類モデルの適用、評価結果の表示まで、一つの筐体内で完結できる、持ち運びに適したハイパースペクトルカメラである。SPECIM 社独自の光学系を用いて、小型軽量なデバイスでのイメージング分光を実現している。加えて、内部光学系の動作により対象物をスキャンするので、被写体の移動を必要とせずに、二次元分光測定が可能であることから、HSI–1d への組み込みに適したモデルと言える。
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測色計を実現するための技術
3. 1 システム構成
ハードウェアの内部構成は Fig. 5 の通りである。照明および受光の幾何学条件は、CIE No.15(2004)に準拠した拡散照明/8° 方向受光を採用している。光源からの光を積分球の内壁面で拡散反射させ、試料に対してあらゆる方向から均等に光を照射し、試料からの反射光のうち試料面法線に対して 8°方向に反射する光を受光・分光して、分光反射率及び色彩値を求める。
HSI–1d の受光・分光機能は SPECIM IQ で実現しており、照明機能は、コニカミノルタで設計している。
また、プレビューカメラを内蔵することで、リアルタイムに測定位置をプレビューすることが可能になり、プレビュー画像を見ながら測定試料の位置合わせができる。
さらに、正確に測色を行うためには、高精度なハードウェアに加えて、絶対値性能を確保するための校正や、誤差要因をキャンセルするための補正も重要な技術である。この校正・補正は PC ソフトで行っている。
3. 2 照明光学系
照明光学系は、試料を均一に照明するための積分球と、高い発光安定性とブロードな波長特性を持つ白色 LED を組み合わせており、加えて光量変動補償を行うことで、イメージング分光に求められる照明の精度と信頼性を実現した。
また、SPECIM IQ は 1000nm までの波長を分光できるので、将来的には、LED を変更することで、測定波長を現在の可視域のみから赤外域まで拡げることもできる。
3. 3 校正・補正技術
校正・補正技術は、従来のコニカミノルタの測色計で用いている技術をベースに、二次元測色に適用するための改良を加えた。
3. 3. 1 面内ムラ補正
二次元で正確な測色を可能にするために、出力結果の面内均一性が重要な性能としてあげられる。すなわち、空間的に完全な均一なサンプルを測定した際に、理想的には二次元の各画素で全く同一の測定結果が得られることが求められる。しかし実際の測定器では、照明、受光、センサ感度の不均一性などの要因から、ハードウェア上の工夫のみで完全に均一な結果を得ることは困難である。
HSI–1dでは、工場出荷時に空間分布が均一とみなせる基準プレートを用いて各画素に対して補正係数を算出することで、面内ムラ補正を実現している。また、ロバスト性の向上の観点から、補正係数に対してフィルタリング処置を施すことで、測定誤差の影響を低減させている。
Fig. 6に、測定径中心を通る断面で切断した際の相対空間強度分布を示す。補正係数算出に使用した基準の試料付近の明度では、面内均一性が確保されることが分かる。一方で、明度が異なる試料では十分に確保されないことが分か
り、下記の対応を行った。
3. 3. 2 画素依存性のある再帰照明補正
d:8°ジオメトリなど積分球を用いる照明系では、照明された試料からの反射光が積分球内で拡散反射を繰り返した後、再び試料を照明する再帰照明が生じる。また、測定面の場所によってその影響は異なりうる。
面内ムラ補正で明度の異なる試料に対して面内均一性が確保されない原因は、再帰照明特性の空間依存性が影響していると考え、HSI–1dでは、工場出荷時に複数の基準プレートを使用して各画素に対して再帰照明補正係数を算出して、機器を補正した。
Fig. 7は、補正の有無による面内均一性を示す。面内ムラ補正に加えて、画素依存性のある再帰照明補正を与えることで、明度が異なる試料に対しても測定器の面内均一性が確保されたことが分かる。この両者の補正により、高い測定性能を実現した。
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今後のイメージング分光測色の展開
イメージング分光測色計HSI–1dにより、微小面色測定の効率化が可能になった。今後は更なる効率化を実現するために、より容易にデータを取得する領域を選択する、あるいは、解像度向上するなどのアプリケーションソフトウェアおよびハードウェアの改善を行っていく必要がある。また、Fig. 8 のように、面内での色の均一性評価や欠陥検査、表面状態による風合いなどの二次元で高い測色性能が必要な評価が実現できる可能性がある。今後は、今回
開発したイメージング分光測色計HSI–1dを用いて、顧客密着によりニーズや活用方法を探り、新たなソリューション提供につなげていきたい。