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はじめに
2011年に世界最軽量で堅牢なAeroDR発売を皮切りに、軽量性・堅牢性の向上や高いX線光子検出効率(以下DQE)・高解像度を実現し、撮影時の低被曝化・手指骨画像などの微細構造が見やすくなる等の価値を AeroDR に付加してきた。さらに近年では、動態解析を行うワークステーション「KINOSIS」に必要な動画撮影可能なDRパネルの開発、そして無線動態撮影が可能な回診X線装置AeroDR TX m01の開発により一般撮影室だけでなく、回診業務での動画撮影を実現し、DRパネルそのものの進化だけでなく、システムとしての付加価値を高めてきた。
DRパネルは一般撮影室だけでなく、回診・手術室・救急・NICU・在宅など様々な場所や、患者がパネルに乗って撮影するなど様々な使われ方をされるため、破損につながるリスクがあるが、AeroDRは高い堅牢性により、お客様に安全安心に使用してもらっている。一方で、例えば、回診撮影など患者ベッドサイドでの撮影において、技師は片手で患者を支えながら、もう片方の手でパネルを患者とベッドの隙間に差し込むことを行っている。これらの作業はかなりの負担であり、また近年女性技師が増加傾向にもあるため、パネル重量や取り回しについての要望が依然に増して高くなっている。さらに、医療法施行規則の改正により患者の線量管理が求められるなど、患者に対してもより安全に使用する動向となっている。その為、AeroDR swiftでは、AeroDRシリーズの高い堅牢性は継承しつつも、軽く持ちやすくすることで技師の負担を軽減するとともに、高DQE化により患者の更なる低被曝化を目指した開発を行った。
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軽量化技術
従来X線撮影はCRカセッテが使われていたが、DR化が進み医療従事者や技師は日常的にDRパネルを使用している。CRカセッテは2.0kg程に対して、従来機である 1417サイズのAeroDR fineは2.6kgとまだまだ重く、CRカセッテ並みのDRパネルを要望する声が多い。AeroDR swiftでは現場の声に応えるために、CRカセッテ並みの重量を目指した。DRパネルを軽量化するためには、AeroDR fine構成部品の中で重量物となっている、ガラスTFT、基台の軽量化が必須である一方で、そのための新規技術と高い堅牢性やリペア可能な構成はトレードオフの関係性にあり、すべてを両立させる技術確立が必要となる。
2.1 ガラスフリー薄膜TFTセンサの採用
一般的にTFTセンサは、X線を可視光に変換するシンチレータと可視光を電気信号に変換するTFTセンサで構成されている。シンチレータは、潮解性がある柱状結晶のため、結晶先端が変形しやすい構造となっている。そのため、AeroDRの従来構成では、高い防湿性の確保とシンチレータ先端の局所的な変形の防止を目的にTFTセンサのガラス基板とシンチレータを挟んで反対側にガラス板を設置し、端部を防湿封止する二重ガラス構造を採用していた。対してAeroDR swiftでは、TFTセンサ基板をガラスから樹脂フィルムへ変更し、かつシンチレータを挟んでいたガラス板を廃止している(Fig.1)。これによって大きく軽量化(約250g減)が図れる一方で、低下するシンチレータの耐湿性に対して、高耐湿耐久性能を満足させるため、シンチレータを透湿性の低い金属製の防湿フィルム層で覆うだけでなく、シンチレータ結晶先端と側面を樹脂膜で覆うことで高い防湿性能を確保し、かつ結晶先端の変形を防止している。
2. 2 発泡材を用いた基台の新規開発
AeroDR swift は、従来機である AeroDR fineと同様に、筐体は曝射面側カバー(フロント板)、非曝射面側カバー(バック板)による2ピース型の外装と、内部のTFTセンサパネルや電気基板類を支持する基台を含む、内部モジュールによって構成されている。(Fig.2)
1417サイズのAeroDR fineの基台はパネル全体の重量の約15%を占めており、TFTセンサパネルの割れ防止や電気基板の実装部品を保護する役割を担っている。基台の材料にはフィラー入りの樹脂やCFRP素材を用い、荷重や落下衝撃に対して、基台自体で保護する設計を採用していた。(Fig.3)
AeroDR swiftでは、フィラー入りの樹脂やCFRPよりも比重が軽く、要求される機械的強度を持ち、かつ薄膜成形が可能な小粒径ビーズ発泡材を基台に採用することで、AeroDR fine全体重量の約5%まで軽量化した(約250g減)。一方で、発泡材は局所的な荷重や衝撃に弱く、従来積層構成では内部部品の破損に至ってしまう。そこで、患者がDRパネルに乗った際にパネル表面に受ける局所的な荷重は、パネル内の隙間(空間)を発泡材で充填し立体構造で荷重たわみを抑制させ、パネル落下などの衝撃は、発泡材の基台を含めた内部モジュールを、フロント板外周の側壁部と離間させてフロント板に貼り合わせ、内部モジュールに衝撃を伝えない新規設計にすることで、既存機と同等以上の堅牢性(点荷重と落下高さ)を確保した。(Fig.4)
しかしながら外装や内部部品のリペアの際には内部モジュールを破損無く剥離する必要がある(Fig.5)。衝撃耐性とリペア可能な構成はトレードオフの関係にあり、貼り合わせ面の剥離強度が高ければ衝撃耐性は向上するが、内部モジュールを外装から剥がす際に、TFTセンサパネルや電気基板類を破損する恐れがある。そこで衝撃荷重に対して1.5倍の粘着力を持ちつつ、内部モジュールを破損させない安全率1.5を保つ適切な粘着材を選定した。(Fig.6)
2. 3 小型で軽量なリチウムイオンキャパシタの採用
従来機のAeroDR fineで採用しているLICは大型で重く、パネル内の配置にも制約があったため、LICを流れる電流とTFTセンサ信号線が並走してしまい、電流により発生する磁界が画像に与えるノイズ影響が大きかった。AeroDR swift では、小型で軽量な高エネルギー密度のLICを新規採用し、従来LICより約70% 小型化している為(Fig.7)、パネル内配置の自由度が高く、LICに流れる電流から発生する磁界が相殺する様にLICを配置することでノイズ影響を軽減している(Fig.8)。これにより、従来LICからノイズ影響を約25%低減、また重量を約40%軽量化した(約80g減)(Fig.9)。
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把持性の向上
回診撮影では、技師はパネル端部を把持しながら、患者とベッド間のパネルを挿抜させる動作を、施設によっては1日に20撮影程度行うこともあり、把持力の低減が技師の疲労感軽減に繋がる。従来機であるAeroDR fineではパネル裏面に把持力を低減させる指の引っ掛かりの凹みを上辺4mm、それ以外は2mmを設けていた(Fig.10)。AeroDR swiftでは、小型LICを採用し、凹みと内部部品が干渉しない配置にすることで、4mmの凹みを全周に広げた(Fig.11)。これにより、上辺以外もAeroDR fineから更に把持力が20%低減し(Fig.12)、全周における把持性が向上した。
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画質性能の向上
AeroDR swiftでは、電気ノイズ低減などの技術に加え、X線入射側の筐体とTFTセンサ内の緩衝材の最適化、X線入射側のガラスをよりX線透過率の高い金属フィルムへ変更、及びシンチレータとTFTセンサの貼り合わせの最適化により、シンチレータに到達するX線量を向上させ、シンチレータによって変換された可視光のロスを抑えることで単位線量当たりの感度を向上させている(Fig.13)。その結果、高解像度100um画素でありながら高いDQE(59%(1mR,1cycle/mm))を実現し、従来機AeroDR Premiumに対して約25%の低被曝化を実現している(Fig.14, 15)。
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まとめ
上述の技術により、高い堅牢性やリペア性は確保しつつ、重量は1417サイズのAeroDR fineの約27%減の 1.9kgとなり、自社CRカセッテ同等以下の重量を実現した。また、軽量性とパネル全周に設けた周囲に設けた凹みにより、AeroDR fineよりも持ち運びや取り回ししやすいため、医療従事者や技師は日々のワークフロー、例えば、感染防止のカセッテカバーのビニールに包袋した特に持ちにくいシチュエーションにおいても、身体的負担や疲れや落下などの不安感を軽減、という価値を提供できる。さらに、高DQE化により低い線量で高画質な画像を得られるため、患者の被ばく線量低減にも貢献できるパネルとなっている。AeroDR swiftは、従来の設計思想や既存技術に捉われず新規技術を開発することにより、これらを達成することができた。
医療現場では日々多くの検査を安全に実施する必要があるが、回診や在宅・救急など一般撮影室とは異なる環境での撮影もあるため、状況に応じた対応を強いられている。また、撮影される患者にとっては被曝への不安、ポジショニング時の苦痛や撮影に伴う負担が多いなど、取り組むべき現場の課題は多々ある。コニカミノルタは、今後も、その様な医療現場に寄り添い現場での真の困りごと捉えた開発を行うことで、医療従事者や技師、患者が安心安全を感じることができる製品開発を行っていく所存である。