1
はじめに
超音波検査は低侵襲で簡便に実施でき、医療現場に広く普及している検査である。近年では、他の医用画像診断装置では発見が困難、かつ検査の時間がかかる微小な骨折や、筋肉や靱帯の損傷の発見と回復の確認が可能なことや、透析時の血管の詳細な観察や機能評価が可能なことから、整形外科や人工透析内科への普及が進んでいる。
超音波検査では、検査者が超音波の送受信を行うプローブを被検者の生体に当て、 Bモードやカラーモード、パルスウェーブドプラモードを用いて断層像や血流の有無、向き、速さなどを画像化して生体の形態評価や機能評価を行う。この時、プローブを当てる位置や角度、圧力といったプローブ操作や、被検査者の体位や状態、検査者の個人差によって描出される画像が異なるため、同様の検査や経過観察を行ったとしても評価結果が異なる場合があり、再現性に課題がある。また、整形外科や人工透析内科は医師だけでなく、理学療法士や臨床工学技士などのコメディカルと連携した診療を行うため、医師とコメディカルの超音波検査の結果共有が重要となる。
そこで、プローブを当てる位置、角度や診療の様子を把握できるカメラ画像を超音波画像と一緒に記録するCamera Link機能、その画像を医療従事者間で共有するImage Share機能を開発し、当社の超音波診断装置であるSONIMAGE (ソニマージュ) HS2およびSONIMAGE MX1に搭載した。本稿では、これらの機能について報告する。
2
超音波診断装置を用いた診療の課題
2.1 超音波診断装置による画像取得における課題
超音波診断装置は、超音波の送受信を行うプローブを被検者の生体に当て、送信された超音波が検査部位から反射することによって生じる反射波を受信して画像に変換し、検査部位の断層像を表示するものである。またこの断層像以外にも、検査部位の血流の有無や向き・速さなどを画像にして、検査者に提示することが可能である。上記断層像と血流などの画像を超音波画像と呼ぶ。超音波画像は、リアルタイムに得られる利点があるが、他の医用画像診断装置による画像と比較してどの検査部位を取得したかを画像から読み取ることが難しい。このため従来は、装置の機能を使用して、どの部位の画像を取得したかを示すイラスト(ボディーマーク)や、当てたプローブの位置や方向を示すプローブマーク、取得した画像の部位を示すテキスト情報を超音波画像に付加し、一緒に保存することで対応してきた (Fig. 2 左下および右下のイラスト)。
一般的に、検査者が適切な超音波画像を取得できる手技を獲得する難易度は高い。超音波診断装置の手技獲得には、過去の検査画像を参照し、ボディーマークやプローブマーク、テキスト情報など画像に付加された補助情報を参考にすることになるが、生体にプローブを当てる位置や角度をどのように調整していったかというアプローチ方法を観察することが有効であり、このような情報は画像には付与されていない。Fig. 2に、上腕動脈の長軸像と短軸像、ボディーマークとプローブマークの例を示す。図中のRという文字から右腕であることがわかる。また、ボディーマークとプローブマークから肘付近の血管の短軸画像と長軸画像であることがわかるが、プローブを当てた位置は詳細にはわからないし、どのような角度でプローブを当てたかもわからなかった。
2.2 超音波診断装置による実際のワークフローにおける課題
2.2.1 整形分野での例
整形外科での超音波診断活用のワークフロー例を以下に示す。
① 医師が、診察室で、患者から取得した超音波画像を電子カルテに保存。
加えて、理学療法士に対するリハビリ処置の指示を入力。
② 理学療法士が、リハビリ室で、1で保存された超音波画像や医師からの指示を読み、実際のリハビリ処置を実施。
従来は、医師による超音波画像がどの方向・角度から取得したものかの情報については、画像に付与する補助情報やカルテ上の情報などを参考にするしかなく、経験の少ない理学療法士においては検査部位や疾患部位の正確な位置の理解が難しかった。また、医師から理学療法士へのリハビリ指示も文章によるものであり、取得された画像と連動した詳細な指示出しまでには至らなかった。このような状況でも、医師と理学療法士が一丸となって患者の診断~リハビリの対応についての質を向上させるために、超音波画像の更なる活用を軸にした、院内でのチーム医療の強化実現が求められていた。
2.2.2 透析分野での例
透析では体内より取り出した血液を、腎臓の代わりに血液を浄化する血液透析器に通し老廃物や余分な水分の除去などを行い、浄化された血液を体内に戻す。その際に血液を効率的に体内から取り出し浄化された血液を体内に戻すために静脈と動脈を繋ぎ合わせるシャントを作成する。このシャントにトラブルが生じると患者の負担が増加するだけでなく、場合によっては生命の維持が困難になるため、シャントを適切に管理することは非常に重要である。シャントを管理するために、透析施設においては患者ごとの血管の走行や穿刺部などを図示した、シャントマップやVA (Vascular Access) マッピング情報書などと呼ばれる情報書を作成し、シャント維持に必要な触診、聴診、超音波診断の結果を記録し血管の状態をスタッフで共有している。
人工透析内科での超音波診断活用のワークフロー例を以下に示す。
① 検査者が、超音波診断装置を用いて上腕動脈の平均血流量や指数を観測し、血管状態の評価を行う。また血管に狭窄がある場合は狭窄部の超音波画像を保存し、作成したシャントマップとともにレポートとして管理する。
② 作成されたレポートを参照し、血液透析で活用するシャントの状態管理を行う。
Fig. 3にVAマッピング情報書の例を示す。上述のワークフローで、保存した超音波画像がどの血管を撮像したものかを検査後に読み取ることは難しいため、シャントマップの作成も含めて、レポート作成の難易度、および作成者にかかる負荷は高いものとなっている。検査効率の改善や質向上に向けては、本分野においても院内チーム医療の強化実現が求められていた。
3
Camera Link機能
本章では、超音波診断装置の再現性に関する上述の課題に対して解決を図るために開発した、Camera Link機能について概要を説明する。
3.1 機能詳細
Camera Link機能は、超音波診断装置に接続したUSBカメラで取得した映像を、超音波画像内にPicture in Pictureで表示するものであり、SONIMAGE HS2、SONIMAGE MX1に搭載されている。カメラから取り組む映像は動画・静止画を選択でき、カメラ映像の超音波画像上の位置やサイズはタッチパネル操作などで容易に変更可能である。一般の超音波画像と同様に、カメラ映像が合成された状態で装置への保存が可能で、後で表示・再生を行うことができる。カメラに搭載された音声マイクからの入力音声も一緒に保存することで、診断時の音声を保存し、再生することが可能である。
3.2 効果
Camera Link機能によりカメラで超音波画像の撮像部位を表示・保存しておくことで、検査後に超音波画像中のカメラ画像をリアルボディーマークとして参照し、超音波画像を取得するためのプローブの位置や角度を正確に把握することが可能である。特にカメラからの動画とともに保存した超音波画像からは、対象の超音波画像の取得に至るアプローチも把握することができ、手技獲得に非常に有効である。
また、検査時の音声を含んだ動画を含めることで、検査者が後日その画像を参照する検査者に対して、診断に有用な情報や指示などを残し活用することも可能である。
4
Image Share機能
本章では、院内チーム医療の発展を促すために開発した、Image Share機能について概要を説明する。
4.1 機能詳細
Image Share機能は、院内に構築したネットワーク、超音波診断装置、Image Share PC、タブレットを接続させ、超音波診断装置で取得した画像をPC、タブレット、他の超音波診断装置上から参照可能にする機能である。超音波診断装置は複数台の接続が可能で、異なる超音波診断装置で取得した画像をどの超音波診断装置からも参照することができる。使用する動画ファイルのフォーマットはPCで一般的に利用されている、音声を含めた動画ファイル形式であり、音声情報を含んだ動画が挿入された超音波画像を、どの装置・どの端末(PC・タブレット)からも参照することができるようになる。
4.2 効果
Image Share機能により保存された画像は、院内ネットワークに接続された様々な装置や端末からも再生表示が可能となる。このため、院内どこからでも簡単に超音波画像を参照することができるようになり、検査者以外の医療従事者による画像活用が容易となる。
5
Camera Link機能とImage share機能の活用
Camera Link機能で撮影したリアルボディーマークと音声が記録されたCamera Link画像をImage Share機能で共有することで手軽にほかの場所で確認することができるため、院内のチーム医療の改善に活用することができる。
5.1 整形分野での例
従来、理学療法士はカルテや文字で記載されたリハビリ指示書だけでリハビリを行っていたが、整形分野、特に運動器疾患の治療において超音波診断装置の活用が広がっていくなかで超音波画像の共有も重要になってきた。理学療法士がリハビリを施術する際に診察室で記録されたCamera Link動画を参照することで、医師が行った治療および処置内容や患者へのリハビリ指示内容がより正確に詳細まで伝わるのでリハビリによる回復効果の改善が期待できる。また、超音波診断装置を利用したリハビリ施術中のCamera Link画像をImage Share機能で医師に共有することで、リハビリ中の患者の反応やリハビリの効果を医師に報告することが可能になり、施術効果の確認やリハビリ方法の再検討も可能になる。さらに 、診療を受ける方にとってのメリットが考えられる。医師による注射などの処置中には緊張などもあり、理解が不十分でも質問できなかった内容や、診療中に時間が無く医師に質問できなかった内容も、20分程度の時間が確保されているリハビリ中にCamera Link動画を見ていただくことで理解が進み、わからない事を理学療法士へ質問できる。そのため、医師からのリハビリ指示内容や臨床療法士が行うリハビリ指導の理解が進みリハビリ意欲の向上および効果の向上が期待できる。
5.2 透析分野での例
第2.2.2章で述べたシャントマップ作成においてもCamera Link機能とImage Share機能は有用である。Camera Link機能でリアルボディーマークと超音波画像を一緒に動画として記録できるため、煩わしい記録作業を行うことなく透析作業に集中することができ、レポート作成時にカメラ画像から検査部位や穿刺部位の特定が可能になり、その際の超音波画像から狭窄など血管の状態の確認や血流計測結果の参照が可能になる。そのため透析作業の時間短縮が可能であり記録ミス防止も期待できる。また、この動画がImage Share機能で共有されているため、他の検査で装置を使用している際にもタブレットやレポート作成用端末で動画を確認しながらレポート作成が可能になり、超音波診断装置の有効活用が可能になる。
6
まとめと今後
チーム医療の質の向上を目指して開発したCamera Link機能とImage Share機能の詳細とそれらの活用方法について説明した。Camera Link機能により、習熟者が目的の超音波画像の取得に至るアプローチを保存できるようになり、再現性の改善や習熟をサポートすることが可能となる。さらに、Camera Link機能とImage Share機能を組み合わせることで、超音波画像だけでは得られない情報や指示などを院内で共有することが容易になり、チーム医療でのコミュニケーション改善が可能となる。本稿では整形分野や透析分野での活用方法について紹介したが、今後はその他の診断分野においても活用方法を提案していきたい。